考察
『心霊アパートの思い出』の中で、幼い洋平くんは母親の甲斐子さんに対して次のようなセリフを述べている。
「黒い頭が部屋の中にいっぱい転がってるよ」
わたしはこれを読んだ時にピンと来るものがあった。
人頭の黒焼きである。
過去の日本では、死んだ人間の内臓や骨粉を薬として利用していたという記録がある。
もっとも有名なのは江戸時代の処刑人だった山田浅右衛門だろう。彼は死体の肝臓や脳などを原料に、病に効く丸薬を製造していた。明治時代になると、死体を使って薬を製造する行為は禁止されたが、巷では依然、薬の売買は行われていたという。
その薬の中に、人頭の黒焼きというものがある。
これは読んで字のごとく、遺体から切り取った生首を壺に入れて、真っ黒になるまで焼くのだ。黒焼きは万病に効くとされ、高値で売れた。
科学が発達した今の時代からすれば信じられない話だが、当時の人々は、人間の臓器が難病の特効薬であると信じていた。実際、元号が昭和に変わった後も、病気を治すために人間の臓器を食べたという事件が何件も起こっている。
薬としてのカニバリズム信仰はそれほどまでに根強かったのだ。
わたしはすぐさまT町で起きた事件を調べることにした。
すると、昭和の初め頃に書かれたとある記事が見つかった。地元の新聞に載っていた小さな記事だ。
『人間の生首を売る恐るべき墓守』
見出しにはそう書かれていた。T町のとある寺の墓守が、深夜に墓を暴いて死体の生首をもぎ取っていた、と記事は報じている。墓守は生首を黒焼きにして、薬として売買していたのだという。残念ながら寺の住所までは記載されていなかったが、おそらく過去にS施設の土地に立っていた寺だろうと思われる。
予想通りだった。
洋平くんが見たのは、かつてあの場所で焼かれていた生首の光景だろう。また、田代さんが見たのは墓守の男が遺体を引きずる光景。春江さんが祖母の家で見たのは、遺体を傷つけられた者たちの怨念か。
しかし不可解な点がまだ残っている。
壁から滴る液体と、N家の外壁に群がる蛾。この二つだけは、いくら考えても理由が思い当たらなかった。
*
以上の考察をサイトに掲載してからほどなくして、わたしのSNSアカウントにメッセージが送られてきた。サイトのプロフィール欄に記載していたリンクから飛んできたらしい。
送り主のアカウント名は『あ』。投稿は一件もない。どうやらメッセージを送るためだけにつくられたもののようだ。
メッセージの冒頭には次のように書かれていた。
“はじめまして。
××町に関する怪異の記事、たいへん興味深く拝読させていただきました。とくに□□さんのおばあ様の家での話を読んだときは、背筋が凍るような思いでした。”
わたしは驚きのあまりスマートフォンを取り落としそうになった。
××町というのはT町の正式名称、□□さんというのは春江さんの旧姓である。
記事に登場する人物の名前はすべて仮名、もしくはイニシャルにしてある。しかも方言によって地方を特定されないよう、口調もすべて標準語に直している。
それなのにこの人物はT町を特定しただけでなく、春江さんの旧姓まで言い当てたのだ。
もしやT町の事情に詳しい人なのかとも思ったが、春江さんの旧姓を知っているのはおかしい。
送られてきたメッセージに目を通したわたしは、すぐに送り主に連絡を取ったが、返信はなかった。しばらくするとアカウントも消されてしまったので、彼(もしくは彼女)と連絡を取る手段は途絶えてしまった。
メッセージには一連の怪異の真相と思われる内容が記されていた。
これ以上、わたしが長々と説明する必要はないだろう。
よってメッセージの内容をここに記載することで、この話を締めくくりたいと思う。
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