4. 骨つき肉と私と冷凍庫

 妻夫木刑事は目覚めた。

 椅子に縄で縛りつけられ、拘束されている。


 女性——ナタリー・レムは、相変わらず立ち尽くしている。


(年は私より幾らか上かしら。でも、結構いい顔をした男ね。タイプかも。)

「やっと目覚めたのね」


「何だ、あの妙な〈化け物〉たちは!」

「さて、なんのこと? 幻覚でも見た? 夢の中で何かみたのかしら? 入り口に麻酔ガスをいてるの」

「麻酔ガス!? そんなことして、よほどやましいことがあるんだな! 何を隠そうとしているんだ!」

「そんなところね」

「俺を拘束なんかして、署に身代金でも要求するか?」

「それもありね。円くらい要求しちゃおうかしら」

「うちの署にそんな余裕はない」

「じゃあ、一応聞いてみるけど、あなた自身に出してもらうっていうのは可能かしら?」


「……」と、妻夫木刑事は勢いを失い、口をつぐむ。


(え、ひょっとして!? この刑事さん、お金持ち?)

「何、まさか払えるっていうの? うっそー!」


「そう……かもな! だが、その前にまず、俺の身が自由になる必要がある。ふん、こんなもの、こうして……これくらい……どうってことない! ああっ!」


 妻夫木刑事は、容易く椅子の拘束を解いてしまった。

 そして直後、今度はナタリー・レムの方が、椅子に縄で拘束されてしまった。


(へぇ、中々に手際がいいじゃない。)

「あらまぁ。降参よ、降参」


「これで形勢逆転だ。それに、降参、なんて言ったって見逃すことはできないぞ? 捜査令状が出ているからな」

「ええ、そうみたいね」


(令状ねぇ……。そんなものあろうとなかろうと、不思議と抵抗する気が起きない、わ。)


 妻夫木刑事は室内を物色し始めた。

 リビングに冷蔵庫——いやそれは冷凍庫のようだ——がやけに多い。五台。


「業務用の冷凍庫か。妙だな、若い外国人女性の家にこんなものが、それもリビングに、あるなんて!」

「そういうことも、あるじゃない?」


(ああ。ばれちゃったわ。)


 妻夫木刑事は、冷凍庫のドアの一つを開ける。

 すると、バラバラになった生き物の体の一部がたくさん。


「なっ……なんだこれは!? 死、体? お前……これが異臭の原因だな!」

「違うわ。話を聞いて。みんな、私から生まれてきた可愛い子たちで——」


(そうねぇ。毛の少ない肌、五本の指、白と黒の目玉。拳大こぶしだいの脳みそ。ややムチっとした短い四肢。産毛うぶのようなものに覆われた頭。確かにそう、その通りだけど……)


「ああ、そうだろうな。子だ。子供だ! それもほんの幼い……赤ちゃんくらいの体のパーツだな? こんなにたくさん、恐ろしいやつだ……」

「ええ、恐ろしいわよ、私って人間は……」


 妻夫木刑事は、これを殺人及び死体遺棄事件としたいらしい。

 ナタリー・レムは署まで連行された。



   〈続く〉

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