第2話 嫌なmasterシナリオ

「masterシナリオって……なに?」


【masterシナリオ:幻想の僕と桜の君】

     YES /NO


直感ではあるものの、普通のシナリオではないことは察しがついていた。

master……わざわざ長と呼ばれるmasterを用いているシナリオ。

はっきり言って、初心者が挑戦するシナリオではないことは明らか。

幸運なのか不運なのか分からない自分にため息を吐き……骨となった肉体を見る。


カチャカチャと鳴る骨。それを煩わしく思いながらも、獲得したスキルと称号を見る。


【称号・完膚なきまでの敗北】

条件:初めてログインして10分以内にMPと体力を使い切り、モンスターを一度も倒していない

獲得スキル:[弱点聖属性Ⅰ]、[魔力補正Ⅰ]

種族変化:人間から{プレイヤーモンスター}スケルトンに変化


【スキル・骨魔術】

種族が{プレイヤーモンスター}スケルトンへと変貌することで獲得できるスキル


【スキル・邪属性】

カルマが一気にマイナス100まで傾いた時に獲得できるスキル

 

どうやら凛の体が人間からスケルトンに変化してしまったのは、称号の【完膚なきまでの敗北】が原因のようだ。

新しく何個かのスキルが手に入ったのは嬉しいが、操作性は人間の頃の方が明らかに高性能。

悪徳性能を持ち合わせる称号に舌打ちを吐き出しつつ、凛は骨の体を動かす。


筋肉がないのにも関わらず動くのは意味不明だが、ゲームにはそういう合理性は必要ないということで気にしない方向で行くとしよう。


「あれは…私と同じスケルトン…?」

「カタカタカタカタ」


言葉を発してしまったがゆえ、スケルトンは凛をターゲットとして定め、攻撃を繰り出そうとする。

初めての戦闘らしい戦闘に冷や汗を流すが、心の奥底では冷静に分析をしていた。


スケルトンに武器はない。同じスケルトンとして魔法を扱えないのはなんとなく理解し、物理武器もない。

ステータスと技量の面を意識しなければ、負ける要素は存在していないのだ。


「骨魔術!」


【骨魔術は杖を使用しません。杖を収めた上でもう一度骨魔術を唱えてください】


「はぁ!?世話の焼けるスキルだこと……。魔法使いの杖をアイテムボックスに収納!そしてようやくの骨魔術!」


声を張り上げれば、凛の小指の骨は魔力を帯びて飛んで行き、スケルトンの頭部に直撃した。

どうやらあのゴブリンよりかは脆いらしく、直撃した頭部にヒビが入っている。

エネミーのHP量も一割ほど減っているので、残り九発ほど骨魔術を打てば倒せる計算だ。


今立っているフィールドが難しいことは既に把握しているが、もしかしたらと希望的観測が見え始める。

先ほどの黒魔術と比べて魔力の減りが抑えめな骨魔術を横目に挟みつつ、骨マシンガンを繰り出す。


「うん…倒せた。いやー、意外と弱いね。あのゴブリンが強過ぎるだけか……そもそもフィールドが違うか…」


ゲーマーとしての予測が思考を巡り、リスポーンした場所が別フィールドではないかと予測した。

レトロゲーマーとして積み上げてきた経験則……それは見事に噛み合っていた。

論理のクソもない完全直感の解であるが、答えへと辿り着いていた。


【レベルが3に上がりました】


【称号・同族殺しを獲得しました】


【称号・化物の魔法使い】


推測が更に奥に入りそうになった時、運営からの音声で横槍が入る。

全くの偶然であろうが、運営が文句を言っているように感じた。

そこから先はイベントを見てから推測しろ、と。


それを想像し、凛はカタカタと音を立てて笑う。

表情筋を使って笑顔を作ることはできない。声を出すことはできても、人間の笑いを取り戻すことはできない。

だから、スケルトンらしく音を立てて笑うのだ。


「あ…!そういえばだよ。骨魔術を使った時に用いるMP量が極端に少なかった……そこら辺は物体による代償かな。MPがなくなった時もシステムが言ってたし。ということは、代償と魔力を組み合わせれば使う量は少なくなるのね。ふむふむ、勉強になる」


始めたばかりではあるが、魔術の奥深さについつい笑みが漏れてしまい、カタカタと音を鳴らす。


"骨魔術"だけではなく、他の魔術にも物体の代償はあるのだろうが、噛んだわな思い浮かびそうにはない。

己の持ち得るスキルである"黒魔術"はどのような物体の代償があるのか、と興味が惹かれると同時に……。


現実から骨の音がした。死んだスケルトンの音ではなく、凛が鳴らした音でもない。

また新しく出てきたスケルトンの音。


10発程度で倒せるスケルトン……そんなもの、レベリングに最適な敵ではないか。

初心者にとってはベストマッチすぎる敵にヨダレを垂らし、骨を飛ばす。


「あぁ……でも違うか。だって、私の体にヨダレを垂らす機能なんか無いもんね。スケルトンが使うんだったらおかしいかな…?まぁ、でも……アナタが獲物には変わりないんだから良いよね♪」


「じゃ〜ね〜……骨魔術…」


両手を翳し、指の骨を対象に骨魔術を発動する。

そこから先は簡単なお仕事であった。

発射された骨魔術は追尾弾のようにうねり、回り、スケルトンへと直撃した。


「10発……はオーバーキルだったね。両手なんかを使わなくても、片手だけで十分だったみたい」

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