⑤再会と告白-2-
仕種と雰囲気
懐かしさと恋慕
胸を焦がすような想い
そして──
(身体が、疼く・・・)
目の前にいる強い雄を求めてしまわずにはいられない、灯夜に植え付けられた雌としての本能
和寿と瓜二つの男を前にしたミストレインは思わず涙を流す。
自分が死んでからの和寿がどうなったのは、ミストレインには分からない。
何らかの切っ掛けで出会った女性と一緒になったのだろうか?
ズキッ
(!!)
「・・・・・・すみません、人違いです」
互いの将来を思い自分から別れを切り出したにも関わらず、和寿がどこかの女性と結婚して家庭を築いたところを思い描いてしまったミストレインの胸に鋭い針に刺されたような痛みが走ったのだが、敢えてそれを無視した彼女は男に対して頭を下げる。
「・・・灯夜」
(!?)
自分の頬を伝っている涙を拭う男の指、名前を呼ぶ声は正に和寿そのものだった。
「和寿、さん・・・?」
様々な思いと想いが込み上げてくるのを抑えきれなくなったミストレインは声を上げて泣き出す。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ご免なさい・・・。急に泣き出してしまって」
泣いた事で気分が落ち着いたのか、ミストレインが和寿に謝罪を入れる。
「どうやら落ち着いたようだな」
和寿が自らの手で淹れたミストレインの前にレモンバームティーを置くと、彼女はそれを口に運ぶ。
「・・・美味しい」
(そういえば、俺が泣いた時はこうして和寿さんがお茶を淹れてくれたっけ・・・)
こうして泣いてしまった時だけではなく、眠れない時やテストに向けて勉強している時、和寿は蜂蜜入りのホットミルクやカモミールティーを作ってくれた事を思い出す。
普段は和寿の思い出しても泣かないのに、こうして本人を前にしてしまうと愛情・恋慕・懐かしさ・後悔・嫉妬といった想いが胸に込み上げてくるのか、ミストレインの瞳に再び涙が浮かぶ。
「・・・灯夜。俺では灯夜の悩みに対して望む答えを出す事など出来ないと思う。だが、誰かに打ち明けるだけでも気持ちが楽になるんじゃないのか?」
(和寿さん・・・)
今の自分では気持ちを伝える事は出来ないだろう。
それに、今の和寿はどこで何をしているのか分からないが、新たな人生を歩んでいる彼に自分が関わっていいはずがないのだ。
「ありがとうございます。ですが、これは俺・・・いや、私自身の問題ですから──・・・」
(!!?)
歩く18禁な青年に突然抱きしめられたミストレインは声を出せなかったが、相手が和寿なので大人しくされるがままになっている。
「灯夜が泣いているところをこうして見ているというのは辛い・・・。俺はお前の何の役にも立たないのか?」
(!?)
イケメンの口から紡がれた名前にミストレインは身体を強張らせたが、それもほんの一瞬の事。
力を抜いたミストレインは何を言っているのかといわんばかりに首を傾げて和寿の顔を見つめる。
何も知らない顔をして自然に振る舞うのは、自分を隠すように訓練されたミストレインにとって息をするに等しい行為だ。
しかしそれも和寿ことアイドネウスの前では無意味に等しい。
いや、この表現には語弊がある。
ゲーム補正やヒロイン補正を恐れたアストライアーが王宮で身に付けた演技力は、それこそ王族と貴族という名を冠する魑魅魍魎共をも欺くハイレベルなものである。
現に侍女達のみならず両親と妹も『アストライアーの精神は幼い子供そのもの』『無知で無教養な王女』と思い込み、内心では見下していた程だ。
しかし、年の差と性別など関係なく、和寿は灯夜を愛している。
その想いは、こうしてアストライアーとして生まれ変わっても決して変わる事はない。だからこそ、和寿は今の灯夜が演技している事が分かるのだ。
「か、和寿、さん・・・」
やっぱり貴方には敵わないや
和寿を前にすると自分はただの灯夜になってしまう事を自覚しているミストレインは、ただ子供のように泣きじゃくる。
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