乙女ゲームっぽい世界に転生した男の人生

白雪の雫

⓪序






「爺、帰って来たぞ」


 ここは世界の狭間。


 人間はおろか、神に近い存在だと言われている古代竜やハイエルフでさえも来る事が出来ない異次元───つまり、神だけが自由に行き来できる場所である。


「誰が爺じゃ、アイドネウス!儂はリーベンデールを創った創造神じゃからティフォーネ様と呼ばぬか!」


 この馬鹿孫が!!


 今は日本人に扮しているので黒髪黒目の三十代後半から四十代前半の姿になっているが、本来の姿は天空を司るフェンリルである和寿ことアイドネウスを、七つの球を集めたら龍が一つだけ願いを叶えてくれる漫画に出てくる〇仙人のじっちゃんと瓜二つである創造神が怒鳴りつける。


 んっ?


「アイドネウス?お主が持っている魂はなんじゃ?」


 孫が世界の狭間から護るように手にしている魂から発しているオーラは人間の男性のものであった。


「ああ。俺が見初めた人間・・・灯夜をリーベンデールに転生させる為に魂を持って帰って来た」


「た、魂を持って帰って来たって・・・。お主、まさか灯夜君とやらを──・・・」


「リーベンデールの女として転生させる為にはそうするしか方法がなかったからな」


(こ、殺したのじゃな・・・)


 今日まで神族はおろか精霊や妖精の女に見向きもしなかった孫が見初めた相手が人間の青年だという事実ではなく、リーベンデールの女性として転生させる為だけに彼の魂を元の世界から拉致したという事に、ティフォーネはガクッと肩の力を落とす。


「と、灯夜君を転生させるのは構わぬが、転生体はお主が育てるのか?」


「いや」


 ティフォーネの問いにアイドネウスは首を横に振って否定した。


 人の姿になれば歩く18禁なイケメンのアイドネウスであるが、見た目に反して子供好きで自分の子供が欲しいという願望があったりする。


 弟妹の子供が赤子の頃は手ずから襁褓を替えたり、沐浴をしたり、離乳食を食べさせたり、時には実の親以上に面倒を見ていたのだ。


 今風に言えばイクメンである。


 そんなアイドネウスは、幼女を自分の手で育てて嫁にするという男の夢とロマンを実行するだけの行動力と財力だってあるのだ。


 それをしないアイドネウスにティフォーネが疑問をぶつける。


「自分の妻にする為だけに子供の時から育てた女など、俺にしてみれば個性と自分の意思というものを持たない人形と同じだ」


「ま、まぁ、お主の言葉にも一理あるのう」


 懐から転生手帳を取り出したティフォーネは、灯夜の転生先をどこにすればいいかを考える。


(・・・・・・・・・・・・)


 悩む事暫く


「灯夜くんはミントグリーン王国の第一王女として転生させるかの。アイドネウス、儂が出来るのはここまでじゃ。後はお主次第じゃな」


「ティフォーネ様、感謝する」


 祖父に礼を告げたアイドネウスは自分の本拠地へと戻る。


(・・・・・・すまん、灯夜くん。孫の初めての我が儘で死んでしまったお主にはチート?とやらを授けたが、これも神に魅入られた人間の宿命として受け入れるのじゃよ)


 アイドネウスの為に灯夜を女性として転生させたティフォーネに出来る事。


 それは、彼の第二の人生に幸あれと祈るだけだった。







本命を自分の世界の住人として転生させる為だけに殺すのはヤンデレになるのかと思ってしまったのでタグにヤンデレを入れたのですが、ヤンデレの定義に当て嵌まらないのであれば外します。






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