鬼の家(裏事情)

 女の子の親である鬼五郎と湯女は昼間から男女の情を交わしていた。


 いつも女の子が外に出かけてもいい理由にはこれもある。


 最中に女の子が入れば気が散るということだった。


「あいつの買い手がついたら値段次第でもう1人仕込むのもいいな」


 そんな冗談を下品に笑っている2人。


 そんなお楽しみが続いている中、ベッド横に置いてあったスマホが鳴る。


 こんな時になんだと少しイラつきながら出るとそれは鬼五郎の兄貴分の針千峰剣次はりせんぼんけんじだった。


「おい、買い手が見つかったぞ良かったな」


 「アニキ、買い手が見つかったって?」


「ああ、俺のパイプを使って募集をかけてたんだがやっと見つかってな」


 電話の主、鬼五郎は小さくガッツポーズをすると邪悪な笑みを浮かべる。


「それで客は写真とプロフィールを見て即決したから、急で悪いが今日指定の場所に連れてこい」


「ああ勿論だ。そんで買い取り額はどうなんだ」


「額は二億だ。まあ、その2割は手数料で俺がもらうがな。後、お前は組へこの取引から幾らか上納金を納めるのを忘れるなよ。間違っても全部自分の懐に入れるなよ、組の看板使って商売してるんだから」


「分かってるよ、それじゃあ準備をさせるから切るぜ」


 鬼五郎はそう言って話を終わらせた。


 「クソ兄貴がいちいち偉そうにしやがって」


 ベッドの隣では湯女がシーツを胸元まで引き上げて面白がるように横目で見ている。


「えー、剣次さんカッコいいじゃない」


 「うるせぇ!ガキの買い手見つけただけで何が偉ぇんだよ。パイプがどうとか言って、こっちは十年もあのガキ育ててきたんだぞ? 飯食わせて、服着せて、礼儀が出来る純正な感じの子の方が値がつくって言うからそれも仕込んで俺の手間だろうが」


 自分の女である湯女が剣次のことを格好いいといったことにもからかっているだけと分かっていても苛立つ鬼五郎。


 鬼五郎はガサついた喉で唾を飲み込み、立ち上がってタバコに火をつけた。


 「それをよ、たかが繋ぎしただけで二割持ってくとかどんだけ中抜きしてんだよって話だ」


 そう鬼五郎は本気でそう思っていた。だがそれは全くの勘違いだった。


 剣次が二割しか取らないというのは、組内で取引に横槍が入らないように根回しや警察の目をかわすためのルート、買い手に繋がる地下ネットワークの保証、全て含めた手数料だった。普通なら三割、いや場合によっては半分取られてもおかしくない。それを可愛がってやってる弟分だからこそこの破格の手数料の安さで済んでいた。


 だが鬼五郎には、それが分からない。むしろシノギが出来ていない自分の足元を見られたと思い込んで腹を立てている。


 「二億のうち二割抜かれて組に残りの八千万くらい上納か、ちょっとは減るがまだ一億は残る」


 金額を頭の中で計算しにやりと口の端を吊り上げる。


 「ふふ、これだけありゃ都内にでっけぇマンション買えるぜ。湯女、てめぇには分不相応なブランドもんでも買ってやるよ」


 「やだぁ、調子いいじゃん。じゃ、あの子が帰ってきたらエッチな服でも着せて持ってってよ」


 湯女のその台詞に、鬼五郎は再びタバコを深く吸い込む。


 「へっ、まあいいや続きだ」


 そして湯女に覆いかぶさった。


 男の目にはやはり娘への情など写っていない。


---

次回一章完結です。


女の子を買い手がかったのはそういった趣味があるからではありません。


何かが起こる前に助かるのでご安心ください。


次回『断罪』

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