迷惑配信者

 この正義チャンネルのジャスティスという男だが俺は見覚えがあった。


「お前、戸田正義とだまさよしか?」


「その名前で呼ぶな。今俺は社会に正義の鉄槌を下す配信者ジャスティスだ!チャンネル登録者だってもう10万人いるんだ!」


 やはりその男は俺が学生時代にいつも俺が何かするたびに突っかかってきた俺としてはあまりいい思い出のない奴だったが一応クラスメートの男だった。


 正義、いやジャスティスはそのような事を何故か自慢気に話している。俺が持っているスマートフォンでジャスティスチャンネルを調べたがその通りの登録者数で今行われている配信を見ると一万人の同接者数で多くの人に見られていることが分かった。


「その正義の鉄槌を下すジャスティスさんがどうかしたのか?」


 俺は何故ジャスティスに目をつけられたのかは分からないが旧交を深める訳でもなさそうで早く帰ってもらおうと突き放すように言った。


「令さんの知り合いですの?」


 マリアは状況を酔っていて良く分かっていないようだ。俺はマリアをカメラから隠すように前に出る。


 俺としては実家で騒がれるのも好ましくないし、勝手に映像を撮られるのは気分が良くない。


「なんでって、そりゃお前たち悪人をジャスティスがのさばらせるわけないだろ。そう今日はリスナーの情報提供でお前たちの銃刀法違反が何故か無罪になってしまったことに鉄槌を下しにきたのさ!ジャスティス!」


 そう一息に言うとカメラを自身に向けて変なポーズを取って決め文句らしきものを言っていた。


 俺はそいつの配信サイトコメント欄を見る。


『それまじ?』

『ガチらしい、何かSNSに写真あった。手錠かけられるとこもあったから逮捕されてるのは確定』

『えっ、何で出てきてるの』


「そうなんだよしかもコイツラ3年位失踪していて、それにあのマリアという女の方なんだけど実はあの宮内財閥の娘なんだよ!これは絶対、社会の闇が関わってる!今から全容を暴いてやるからみんな録画しとけよ!」


 ジャスティスがカメラにドヤ顔を向けると、コメント欄はさらに騒然となっていた。


『失踪闇深な件』

『マジで裏に誰かいるパターンか?』

『宮内財閥ヤバー』

『ジャスティスさん気をつけて』


 俺は勝手に盛り上がってこちらの言い分を聞く気のないジャスティスの態度とコメント欄にうんざりして溜め息をつく。


 俺の両親もこの騒ぎで大丈夫かと出てこようとしたが俺が手で制して警察を呼んでもらうようにジェスチャーをした。


 力でこのジャスティスの暴挙を無理やり止めさせる事も可能だがそれをすれば逆効果ということは目に見えて明らかだ。俺は深呼吸をして気持ちを落ち着ける。


 信じてもらえないとは思うが、実際仕方がないとはいえ剣を持っていたのは事実なので責任があると思い説明を始める。


「いいか、信じてもらえるとは思ってないがちゃんと話すからそうしたら帰ってくれ。俺たちは異世界に飛ばされていたんだ」


 その瞬間、コメントが一気に加速する。


『え?』

『異世界……?』

『異世界(真顔)w』

『あーあ、壊れちゃった。ジャスティスやりすぎ』


「ふざけてるわけじゃない居なくなったあの日俺は気づいたら森の中でそこでマリアと出会ったんだじゃなかったら俺とマリアは出会うことはなかっただろう。そこは異世界で生活するのも大変だっただけど2人で支え合って生きていていつものように依頼を受けようとした時に日本に戻ってきたから武器を持ってたんだ」


 ジャスティスは鼻で笑った。


「こいつ銃刀法違反だけじゃなくて、麻薬もやってるんじゃないか?リスナーの皆どう思う?っていうかコイツラが居なくなってたのって……」


『異世界(隠語)』

『アッ……、異世界に飛んだってそういう』

『宮内財閥が薬に関わってる?』

『 確かに不自然かも』


 (ああ、やっぱり無理か)


「ねぇれーい? なに2人で楽しそうにやってるんですか?私も混ぜて欲しいですわ」


 フラフラと、マリアが俺の背後から現れる。


「マリア戻ってろ。今出てきちゃ駄目だ」


「ふわぁ、でも私今とっても気分が乗っておりますのよ~」


「おっと、宮内財閥の。やっぱり麻薬とかやってたんじゃないの!」


 前に出てきたマリアをジャスティスが掴もうとする。


 不味い、マリアに危害を加える気か俺がジャスティスの腕を捻り上げようとした瞬間。


「私に触れていいのは令だけですわ!」


 マリアが手の平をジャスティスに向けた次の瞬間。


 台風がきたのかというほどの突風が吹くとジャスティスは急な突風に体勢を崩し、後ろにすっ転ぶ。


「外で頭を冷やしなさい」


 マリアは風を操る詠唱をし始めると下から風が吹き上げマリアの長髪が舞い始め、ジャスティスの身体は風に持ち上げられ宙に浮く。


 ジャスティスは呆けていて動けない。


「ぅわっ!? ちょっ、飛ぶな飛ぶなあああああああっ!!駄目!駄目ーーー!!」


 彼の悲鳴とともに、玄関先の植え込みに突っ込むジャスティス。


 配信はまだ回っていて、視聴者のコメントが爆発的に流れた。


『CGすげえwww』

『台本乙』

『なんか飛んだぞwww』

『これが魔法ってやつか』

『ジャスティス、めっちゃ金かけた?』


 地面に転がりながらジャスティスがカメラに向かって怒鳴る。


「ふ、ふざけんな! 今の見ただろ!? 本当にぶっ飛ばされたんだってばよ!!」


『迫真の演技』

『痛がり芸きた』

『いつもので草』

『神回キター』

『今日台本かめちゃくちゃおもろい』


「ち、違う! これ演技とかじゃねえっての! 本当に魔法みたいなので……っ!」


 ジャスティスは顔を怒りで真っ赤にしているがコメントは冷たかった。


『ジャスティスくんが壊れ……ちゃた……』

『ジャスティス飛ぶ(意味深)』

『ガチ草』


「ふざけんなぁっ!!」


 叫びながらジャスティスはスマホを掴み、配信を切る暇もなく走り去っていった。


 マリアはというとまだほろ酔いで俺に寄りかかっている。


「あれー終わっちゃいましたの?愉快な方ですわー」


「マリアありがとう助かったよ」


 俺はマリアを優しく抱きしめた。


 酔っていてなにがなんだか分かっていないマリアは魔法をカメラの前で使ってしまったが結果的にそれが最適解だった。


 俺は気にしてないとはいえ結構酷い事を言われたような気がするのでマリアが全然傷ついていないようで良かったとこの騒がしい夜は終わったかに思えたが……。


「通報を受けて出動しました、児玉巡査であります!」


 全てが終わったその後、俺の両親の通報を受け児玉巡査が逃げていくジャスティスを背後に到着したのだった。


「あの、もう終わったので帰ってもらっていいですよ」


「なんですとー!小官間に合わなかったでありますかー!なんたる不覚!」


 なんだか今日は愉快な人が多いな……。


 そうして何とか騒がしい1日が終わるのだった。









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