令の実家へ
そして宮内邸を出ることになった俺たちは俺の両親に直接無事を伝えるためとマリアを紹介するために俺の実家に向かった。
「母さん戻ったよ」
玄関を開けると母親である犬伏モヨ子が迎えてくれた。父親の犬伏厳は仕事で今は家に居ないが帰って来次第マリアを紹介するつもりだ。
「あらあら、貴方がマリアちゃんね。お人形さんみたいで可愛いわね」
「はじめまして、宮内・フリューゲル・マリアと申しますわ」
マリアがペコリと頭を下げ、母が座ってと促すとソファーに腰掛けた。
両親にはあらかじめ宮内邸であった事を言っていたので宮内財閥には触れずにこやかに交流し始める。
「お口に合うかしら?」
母が紅茶を俺とマリアの前にそっと置いた。いい香りが鼻をくすぐる。
「とても美味しいですわ。ありがとうございます、お義母さま」
「自分の家だと思ってリラックスしていいのよマリアちゃん。もう貴方は犬伏家の一員なんだから。それで令と結婚するのはいつなのかしら?」
母は笑い、マリアは一瞬きょとんとして、それからくすりと笑った。
俺も親に自分の婚約相手を紹介するのは当然ながら初めてなので照れる。
「ありがとうございます。出来るだけ早く上げたいと思っているのですが」
「そうだね。それに結婚式の日に婚約届を出したいしね」
そう母の前で惚気ながら答える。
「うふふ、微笑ましいわね。ところでマリアちゃんと令は向こうではどんな暮らしをしてたの?令から電話で聞いたんだけどねやっぱりマリアちゃんの口からも聞きたいわ。どんな所に惚れたのとかね」
「恥ずかしいよ母さん」
母さんの問いにマリアはふっと表情を和らげて、紅茶に唇をつけた。
「最初は本当に何もなかったんですの右も左もわからない異世界。勿論ですが生きるためにはお金を稼がないといけませんし、それだけじゃなく日本とは比べものにもならない治安の悪さでしたわ」
マリアは懐かしむように語り出す。
「私もですが令は最初、魔物一匹殺すのにも躊躇っていましたの。当然ですわ日本人は生き物を殺すということから離れていますもの。私は最初、剣を握ることが怖くてほとんど役に立っていませんでしたわ。そしてそれなのに私を見捨てず毎朝早く起きては剣の訓練を欠かさず毎日魔物を狩ってくれました。それで毎日の生活が成り立っていましたの」
「令が?」
母さんが驚いたように俺を見る。
「いや、まぁやるしかなかったからな。それに俺はマリアに一目惚れしちゃってたってのもあると思う」
俺は照れ臭く鼻を擦りながらそう答えると、それを見たマリアは微笑んで話を続けた。
「そんなある日いつものように私が令さんが魔物討伐の依頼に行っている間に帰って来てからすぐに食事を取れるように食料を買いに出た時のことですわ」
その声が少し震えた。母さんは静かに、話の続きを待った。
「私はいつものようにただ市に行って帰ってくるだけだと思ってましたの。ですがその日は運が悪く、悪い輩に目をつけられてしまったのですわ。輩は私にわざとぶつかると因縁をつけて私を裏路地に連れ込もうとしました、助けを呼びましたが誰も見て見ぬふり。護身用に短刀を持ってはいましたが私はこの状況になっても刃を振るうことが出来ず、輩に向けた短剣は簡単に取り上げられてもう終わりだと思いました」
マリアの指が、カップを持つ手でぎゅっと力を込めた。
「ですが令さんは私の叫び声を聞いて駆けつけると勇敢に戦ってくださいました。それでも令さんは多勢に無勢、もう死んでしまうのではないかというところまで暴行を受けていました。もう私のことなど見捨ててもいいのにそれでも私を襲おうとする輩の足に噛みつき逃げるように言ってくれたのです。その時私は令さんへの恋心と自らの手を汚すことをを覚悟したのです。その時に魔法の素養に目覚めたのですが」
彼女の瞳が俺を見つめる。
「そして2人で輩を倒した後、私が令さんの傷を魔法で癒しながらその傷を見てこの人の隣にいたいと心から思いましたの」
母さんがティーカップを置いてそっと微笑む。
「令がそんなにも人のために頑張るようになってたなんて少し前まではただのやんちゃ坊主だったのに。マリアちゃんあの子を見捨てないでいてくれて支えてくれてありがとうね。それに2人ともそんな異世界から帰ってきてくれてありがとうね」
「いいえ。私は令さんに助けられてばかりで」
母さんは少し涙を浮かべながらも優しくマリアの手を握り、俺の手も握った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます