異世界帰りに気をつけろ〜財閥お嬢様と送る華麗なる日常〜
四熊
家族になろう編
帰還
およそ3年ほど前、俺は不思議な出来事に見舞われた。
俺、
周りを見ると横には同い年であろう少女が眠っていた。
その少女は白いドレスを着ている。髪は腰まで伸びた金髪でまつ毛が長くくっきりとした顔立ちのまるで童話の中から飛び出してきたかのような少女だ。
俺は混乱しながらスマートフォンを取り出し助けを呼ぼうとしたがそもそも圏外で繋がらなかった。
「なんで繋がらないんだよ!」
俺はただでさえ訳の分からない状況なのに電波まで繋がらない不安で感情がつい前に出てしまった。
すると少女が目を覚ますと俺と同じように周りを見渡す。
その混乱した少女と目があった。
「キャー!誰か助けてくださいまし」
「待て、落ち着いて俺も同じ状況なんだ気づいたらここに居て」
俺は弁解したがパニックになった少女は近くに落ちていた手頃な太い木の枝を手に取るとやたらめったら振り回し俺を近づけないようにしていた。
俺は続けて弁解するも誤解は解けそうになったが、不幸にも少女が必死に振るっていた木の棒が少女の手からすっぽ抜けて俺の額にクリーンヒットした。
「あぎゃー!」
これが俺とこれから長い付き合いになる宮内・フリューゲル・マリアとの出会いだった。
そこからマリアを落ち着かせひとまず暗くなる前に森を抜けないと野生動物の危険があると話し合った。
マリアと森を抜け出すと城壁に囲われた都市が見え異世界に来てしまったのかと理解した。
俺たちは何とか元の世界に戻ろうと方法を協力して見つけることになるのだがそもそも異世界はこの世界に生活基盤もなく、倫理観が全く違う現代日本人にとって厳しかった。
同じ日本人という繋がりで最初はぎこちないながらも助け合って生きていこうと経歴不問で命の危険はあるがその日暮らしが出来るくらい稼ぎがある冒険者になることにした。
冒険者になった日から魔王を倒して世界を平和にとか、悪人をバッタバッタと倒したりという勇者みたいな事は無かったがそれなりに俺もマリアも冒険者として名が売れてきて金も貯まってきた。
それで宿暮らしから家を買おうかという話も出来るようになるほど余裕が出てきた。
勿論、2人で暮らす為の家だ。
俺とマリアはこの長い時間、命を預けあった事もあり互いに愛し合うようになっていたのだ。
「令、早くしないと割のいい依頼がなくなってしまいますわよ」
マリアがにこやかに微笑みながらそう告げた時、俺はいつも通り装備を手に取り、冒険者ギルドに向かおうとしていた。
しかしその瞬間。
視界がぐにゃりと歪む。重力が狂ったかのように身体がぐらつき、膝が床に落ちた。
「れ、令さん!? どうなさいましたの?」
マリアの声が響く。
だが、その声すらも遠く、まるで水中で聞いているかのようにぼやけていた。
マリアは心配そうに俺に駆け寄ろうとしたがマリアも同じような感覚に襲われたようでふらりと地面に座り込むようによろけた。
「マリア大丈夫か……」
俺は身体を引きずってマリアを守るように抱くと目の前が真っ白になった。
俺たちは気が付くと日本に戻っていた。
「令さん、ここって日本ですわよね」
「だよな」
気がついた俺たちが周りを見ると下はコンクリート、異世界にはない電柱が立っていて通行人はスーツを着たサラリーマンに制服を着た学生。明らかに異世界では見れない風景だ。
「やったなマリア!」
「そうですわね。あちらの生活も悪くはなかったけれどやっぱり日本の生活の方がいいに決まってますもの」
俺たち2人はやっと日本に帰れたと人目を気にせずに抱き合い喜んだ。
だけれど俺たちはある事に気づいていなかった。
ここは日本で俺たちの格好は明らかに浮いているということだ。
鉄の胸当てやら何やらを装備して剣を腰に下げる男と同じく鉄の装備をしている女が急に日本のコスプレイベントがある訳でもないのに町中に現れた。
するとどうなるかというと……。
「あのー、お兄さんたち少しお話いいかな?不審者の通報受けちゃってね何をしてるのかお話聞きたいんだけど」
警察が不審者の通報を受けて、俺たちが職質を受けることになってしまったのだ。
話かけてきたのはペアで現場に来たうちの若く人当たりの良さそうな顔をしている警官だった。もう1人はベテランのようで若い警官の経験値を積ませるためか後ろで腕組みをして見ている。
「不味いですわよね、魔法で吹き飛ばして逃げますわよ」
「駄目だよ話がややこしくなっちゃう、でもこれはちょっと考えてなかったな」
俺は小声でそう耳打ちするマリアを慌てて止める。
マリアも帰ってきてから早々こんなことになるなんて考えてなかっただろうし、面倒だと異世界式の問題は力で何とかする方法を取ろうとついしてしまったが日本でそんな事をすれば今の状況をややこしくするだけだ。
それに通行人がなんだなんだと動画や写真を撮られてしまっているため魔法は使いたくない。
「それでこの剣、結構良く出来てるね。一応、偽物だとは思うんだけどね確認させてもらいたいんだけどいいかな?」
俺とマリアは顔を見合わせてどうしようかと思ったものの大人しく警官に渡すことにした。
異世界の事を信じてもらえないだろうが抵抗しても今後日本中を逃げ回る生活になってしまうし、大人しく協力して後はなるようになるしかない。
「構いません、どうぞ」
「それなりに重いですから気をつけてくださいまし」
そう言って剣を警官に渡す俺とマリア。
警官は少し俺たちを日常からコスプレをしている変わり者とかだと思っていたのか笑いながら持とうとしたが思っていた重さではなかったのだろう少し顔つきが変わる。
「若松どうした?」
「徳山さん、これ……」
そう言って若い若松と呼ばれた警官は鞘から刀身を抜き、徳山という警官に見せる。
その光に反射し青白く光る刀身を確認した徳山は次に刃先をちょんと触り確認する。
「これは本物だな。銃刀法違反として逮捕させてもらう」
これは予想していた流れだ。俺たちにとって急に日本に戻って来てしまったので仕方がないのだが事実、銃刀法違反になってしまっているので大人しくパトカーに乗った。
マリアが少しだけ不安そうな表情を見せたのでそっと手を握った。俺も少し不安だがそれを悟らせないように。
「令、ありがとうございます少し落ち着きましたわ。それに考えて見れば銃刀法違反はそんなに重い刑罰にはならないはずですし」
マリアは俺にそう言って笑って見せた。
俺たちはそして警察署に連れてこられるとマリアは女性の警官に連れられて行き、別々に事情聴取を受ける事になった。
俺を事情聴取したのは若松、それの調書を徳山という先ほどのペアで行われていた。
自身の名前と何かを武器を持って企んでいたのではないかなどと所持理由を聞かれる。
俺は今までにあった事を正直に話した。
やはり異世界などと荒唐無稽な事を言われては若松も馬鹿にされているのか、それとも薬物などをキメているのかと思われたが俺たちがやはり行方不明者届が出ていたらしく、大きな犯罪の一角を掴んだのではないかと思われ始めた。
「犬伏令くん、本当に異世界から帰ってきたって言ってるのか?」
「はい。信じてもらえないのは分かってます。でも、それが真実です」
俺は諦めるように言ったが、若松は調書に目を落としながら眉をひそめていた。
「令くん。正直、俺たちも最初はコスプレして騒いでる変わり者だと思ったんだ。でも君たちと時期は違うけど最近、同じように急に失踪する若者が多発しているんだ。異世界教という新興宗教に絡んでるって噂もある。偶にそこの団体から逃げて来れた人がいるんだが奇妙な事に行方不明後に戻ってきた連中はもう廃人になっていて一様に別の世界にいたとか口走るんだ」
徳山が口を挟んだ。
「君たちは運がいいのか廃人にはなっていないがそれじゃないかって思ってるんだ。まだそこが関係していると睨んでる失踪事件があって何か知っているなら協力して欲しい」
確かに俺たちの話はその手の狂信的な教団に取り込まれた人間が言いそうな内容だ。
けれど、本当に異世界だったんだ。俺たちは命をかけて生きてようやく帰ってきたんだ。
「そういう団体には関わってません。ただ、気づいたら森の中にいてそれからずっと異世界で」
説明を続けようとした時だった。
部屋のドアがノックされ、どれくらい偉いのかは俺に分からないが新しい警官が入ってくる。
「犬伏令さんはこちらに?」
「はい、事情聴取中ですが……。戸田署長何故ここに?」
徳山がそう答えると、戸田は耳元で何やら言う。
「そんな異世界教事件の大事な証人になるかも知れないのに」
徳山は食い下がるが戸田は有無を言わせない態度で拒否すると俺に向かう。
「令さん、今日は申し訳ないね。銃刀法違反については行方不明であったということと君たちの協力的態度から悪質性がないことは明白だし帰ってもらって構わない事になった」
そうして徳山と戸田は揉めていたものの事情聴取室から出された俺は、警察署のロビーで待っていたマリアと再会した。
「令!良かったですわね」
「ああ、もう大丈夫だってさ。銃刀法違反も不問にしてくれるって」
安堵の笑みを浮かべるマリア。俺もそれに応えるように頷いた。
「色々あって遅れたけど、親に無事を伝えなきゃな」
俺はいつの日か使える時が来ると信じてポケットの中に入れていたスマートフォンを起動する。
当たり前だが電波はしっかりと通じている。
画面を見ると異世界の時間と日本の時間の進み方は変わらないようで異世界で過ごしていた時間分進んでいた。
何度か呼び出し音のあと、母親が電話口に出た。
「もしもし?」
「母さん、俺だよ。令。今、日本に帰ってきたんだ」
「れ、令本当に!?本当にあんたなの」
母さんの声が震えていた。電話越しでも何度も本当に良かったと繰り返してくれるその声に、俺の胸も熱くなった。
そして俺が今までどうしていたのかを伝える。
母さんは相槌をうちながら俺の言葉を否定することなく信じてくれた。
「信じてくれるの?」
俺は母さんの以外な態度にそう言うがそんなつまらない嘘をつく子じゃないでしょと言って信じてくれた。
けれど、電話を切る前に現実的な問題が浮かぶ。
俺の実家はスポーツ推薦で遠くまで来てしまっていたこともありとてもじゃないが今日中に帰れない。
困ったと思いつつ俺がマリアの方を振り返ると、彼女はにっこりと微笑んだ。
「それなら私の家にいらっしゃいませ。確かこの当たりでしたら別宅があったはずですわ」
(別宅なんてあるのか異世界にいたからあんまり実感なかったけど流石宮内財閥の娘だな)
「助かるよ、ありがとうマリア」
母にはその旨を伝え、近いうちに一度そちらへも帰ると約束して電話を切った。
警察署を出ると、すでに日が傾きはじめていた。マリアはどこかに連絡を取ると、間もなくして黒塗りの高級車が警察署前に横付けされた。
運転席から降りてきたのは、威厳を感じさせる老執事だった。シルクのような白髪とピンと伸びた背筋、そしてどこか父親のような優しさを滲ませたまなざしが印象的な人物だった。
「お帰りなさいませお嬢様。犬伏様、初めまして私、別宅の管理を任されております桐生でございます。何卒、今後ともよろしくお願いいたします」
俺とマリアに一礼すると、穏やかに言った。
「桐生久しぶりね。元気そうで良かったですわ」
「ど、どうも……こちらこそ、よろしくお願いします」
礼儀正しいその言葉と佇まいに思わず背筋を伸ばす俺。
俺たちは車に乗り込み、宮内邸へと向かった。
車内は広く、シートも柔らかい。これまでの冒険者としての生活があまりに過酷だったせいか、この静かな移動だけでも夢のようだった。
ふとマリアが俺の手に自分の手をそっと重ねる。
「令、やっと帰ってこれましたわね」
「本当に戻ってこれたんだな」
車の窓の外に広がるネオンや、信号機の明かり。日本のどこでも見られるなんてことのない景色だけど、それが今はやけに懐かしく感じられた。
そして車が曲がると、丘の上に広がる広大な邸宅が現れた。
それが――マリアの家、宮内邸だった。
(いや、これデカすぎだろ。高級ホテルみたいだ)
この宮内邸はヘタをすると異世界で見た貴族の屋敷よりはるかに立派な屋敷だった。
「桐生お腹が減りましたわ。食事を頼めるかしら。令もそれでよろしいかしら」
「ああ、うん。それでお願い」
俺は屋敷に入って案内されていたが自分がここにいるのが何か場違いな感じがしていたところにマリアがそう言うので何処か気の抜けた感じで返事をした。
「令さん、どこか具合が悪いんですの?」
「いや、大丈夫だよ。少しお腹が減ってぼーっとしてただけだから」
俺はそう言って誤魔化した。
心のどこかで考えないようにしていたがやっぱりマリアは住む世界が違う。俺何かが関われていたのは時を同じくして異世界に飛ばされていたからで本当だったら関わることなく一生を終えるような人だ。
(だから異世界から帰ってきてしまったらもう一緒にいることは出来ないんだ)
そう俺は思い悲しくなった。
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