緊急招集

「何が起こった?」


私は降り積もった粉塵の中から、身を起こした。まるで嵐でも過ぎ去ったかの様に、部屋が荒れている。机や本棚が横倒しとなり、床にはガラス片や書類、剥がれ落ちたのであろう壁や天井の破片が散らばっていた。ふと倒れてきた本棚によって、身を寄せていた机ごと吹き飛ばされたことを思い出した。


「そうだ。『空』が落ちてきたんだ…。」


窓から見た『空』が落ちてくる様子を思い出して、思わず身震いする。


どうやら直撃は免れたようだった。


もはやただの窓枠と化した窓からビル風が吹き込み、粉塵や書類が巻き上がり外へと飛んでいく。目を挟めながら窓に近づくと、眼下にはいつもの風景はなくただ瓦礫の山が広がってた。いつも人通りの多い駅前が丸ごと更地になっている。所々に崩壊を免れたであろうビルが物悲しげに立ち並んでいた。


どれだけの人が亡くなったのだろう。私はあまりの惨状に吐き気が込み上げ、思わず嘔吐した。民を守る公務員であるのに何もできなかったという罪悪感と無力感で目の前が暗くなる。


どのくらいそこに佇んでいたのだろうか。ドアの外から聞こえてきた悲鳴によって、私は現実に引き戻された。部下の身に何かあったのだろか。私は慌てて自身の部屋のドアを開けた。


いつもは部下達が仕事に励み、賑わいのある職場であったがやはり書類などが散乱している。


「局長!ご無事でしたか!」


腹心の部下である桐谷が気絶した部下の介抱や安否確認の陣頭指揮にあたっていた。


「みんなは、無事か! 先ほどの悲鳴はどうした?」


「このフロアの者の無事は、確認できています。見当たらないものは各フロアへ確認へ向かわせました。」


悲鳴はどうやらあまりにも凄い揺れだったため、転倒により怪我をして血を流した者がいたらしく、気絶から目を覚ましたばかりの者がそれをみて驚いて声を上げただけだった様だ。


「助かるよ。私がしっかりしないといけないのに…」


「局長は普段ほとんど自分でやってしまうんですから、こういう時こそ我々に頼ってください。」


「しかし、こんな有事にトップのこの私が働かなくては誰がやるんだ。残念なことに周りはほとんど倒壊したようだ。重機がなくては救助もできないだろう。私はここに残るが、皆は家族の安否も気になるだろうし、家に帰してやってくれ。」


「何を言ってるんですか!局長が残るんであれば皆も残りますよ。少なくとも私は残らせてもらいます。」


桐谷がなんとも頼もしいことを言ってくれる。一応食料や毛布などの準備をしなくてはと思ったその時、私の腕時計型端末が鳴った。けたたましいアラートとともに赤いランプが点滅する。


私はあわてて連絡を受け取った。



緊急招令!緊急招令!緊急招令!


手首部静脈識別パターンの照合により、対象「執政局 局長クレア・タナカ」の生体信号、個体識別を確認。


高度多領域統括支援型AI M.O.T.H.E.R.マザー (Multidomain Overseer for Tactical and Human Executive Regulation) より告ぐ。


現時刻において、元老院 議員七名、天観府 天匠三名の生体反応の消失を確認。


総審理議会議席を持つ者の十分の一の死に伴い、緊急総審理議会を一時間後に開会いたします。


有資格者、クレア・タナカの出席を求めます。

                                』


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天蓋が落ちた日——それは終焉の始まりだった。 トリコチロマニア @trichotillomania

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