第17話 酒と本音
さて。起業すると宣言したが、すぐに特別何かをするというわけでもない。季節はまだ春の半ば。確定申告はしばし先の話。急がなければならない理由もない。
始めれば何かと手間がかかる。今はそれより足場を固めることが先決である。今の俺たちの場合は、生活の安定化を指す。具体的には、ケイブチキンを安全確実に狩猟し続けられる能力と技術の獲得である。
俺に関しては、防御力と運搬力。攻撃中の二人を自分を含めしっかり守り、怪我無いようにすること。倒したケイブチキンを確保し、地上まで持ち帰ること。
前者については、慣れが必要だ。落ち着き、状況に惑わされず、確実に盾で防ぐ。ケイブチキン一匹一匹は、決して強敵ではない。盾を壊すような攻撃をしてこないし、爪と嘴に気を付ければ怪我もない。
複数で飛び掛かってきた時に、近いものから順番に対処する。それができれば問題ない。なので、落ち着きと状況判断力が必要だ。それから、体力も。
で、その体力だがケイブチキンのパワーがさっそく発揮された。あからさまに分かるほど、身体に力がみなぎるのである。これまでのダンジョン労働で底上げされたそれに、さらにプラスが入った。
初日は一回の往復で疲労困憊だった。翌日は、疲れ具合が全く違った。一週間経つと、一日二回もケイブチキンに挑戦できるようになった。
げに恐ろしきはダンジョン食材パワー。少しばかり怖さを覚えたので、控えることにした。どれだけ体に良くても、食べ過ぎは体に毒だ。飽きそうになったともいう。
さて、一日二回のケイブチキン狩りは経済面に大きく寄与した。爆発、と表現したくなるほどの上昇ぶりである。こけ玉やビッグアントのあのショボい稼ぎは何だったのか。需要の差といえばそれまでか。美味しいは正義だ。
そうなってくると、こうも考える。一度に運べる量を増やせば、もっと儲かるのではないか。もっとはっきり言えば、さっさと人手を増やすべきか? という話である。
「時期尚早かと」
勝則に相談したら、バッサリとした答えが返って来た。
「確かに、利益は上がるでしょう。ですが、この状況が始まってまだ一週間そこらです。それができるだけの態勢が整っていません」
「起業の最中だし、雇用できる状況でもないからな」
「はい。ですがそれだけではありません。何といっても、現状の我々は自分の身を守るので手一杯です。運搬係を守る余裕はありません」
「む。……確かに」
言われて気づく。俺自身の技量はまだまだだ。何とか怪我なく仕事をこなしているが、余裕があるとは到底言い難い。新人が、地下二階の環境に対応できるようになるまでそれなりに時間がかかるだろう。それまでの間、素人を守り切れるか? ……無理だな。
「この間の社内政治の話もあります。自分たちは、しっかりとした実力を持たなくてはいけません。他業種ならいざしらず、ウチは腕力がものを言うダンジョンカンパニー。ナメられては、今後に差し支えます」
「……しっかり、猿山のボスに成れるだけのゴリラパワーを付けねばならんか」
「先輩なら可能かと」
「ウホッ! 野生の力!」
「二人とも、馬鹿なこと言ってないで仕事してください」
「「はい」」
小百合に叱られた。ともあれ、話はまとまった。やはり、焦らず足元を固めていかなくては。そこに立てるのが、俺たちの会社なのだから。
そんな風に、日々を送る。俺は体力と筋力をつけ、兄妹は魔法の腕前を上げる。地下二階に適応しているのか、食材のおかげか。それらは順調に向上していく。
特に、二人の魔法については目を見張るものがある。どんどん、新しい魔法を覚えていくのだ。
一瞬だが強固な盾を生み出す。命中性の高い輝く矢を作る。十メートル以上を一瞬で飛び越える。壁を走る。一寸先が見えないほど濃い霧を生み出すなどなど。
その幅広さには只々驚くしかない。仕事と日常生活の忙しさの合間ぐらいしか、勉強する時間はないだろうに。そう聞いてみると。
「地下二階までの移動中に、練習してるんですよ」
「発動させなくても、その手前まではできますので。いざという時は発動させて身を守るので一石二鳥です」
という、兄妹の答え。ううむ、よくわからんが頑張っているようだ。順調ならば、それでよし。……思い悩む様子もない。とても良し。
そんなわけで、志を新たにした俺たちは順調に日々を過ごしている。今日も二回目のケイブチキン納品を終わらせた。
「いやあ、今日も大猟だね入川さん」
「あ、所長さん。どーも、お世話になってます」
と畜場の入り口で、偶然ここの所長さんと出会う。そろそろ定年が近い、御年輩の男性である。頭がつるりと禿げ上がっている。……やはり頭皮のケアは大事だなあ。他人ごとではない。
「入川さんのおかげで、うちも潤ってるよ。いやあ、ありがたいありがたい」
「こちらこそ。一日二回なんて無理な納品に応えていただいて」
「いーのいーの。ケイブチキンはあればあるだけいいから! これからもジャンジャンよろしくね! ……あ、そーだ。これ持って行きなよ」
そういいながら差し出されたのは缶ビールが二本入った手提げのビニール袋。昨今の物価高は、こういったものにも表れている。毎日の晩酌に、と気軽に手が出ない値段までビールは上がってしまった。
引っ越ししてから、金が無くて全く飲んでいなかった。
「いいんですか? 会社の人に……」
「ああ。これ、分けた余り。ちょっと付き合いで箱ごともらってね」
何とも剛毅な。やっぱある所にはあるんだなあ。そういう話なら遠慮はしない。
「それじゃあ、ありがたく。御馳走になります」
「来週もよろしくねー」
所長さんに笑顔で送り出されて、と畜場を後にする。いやあ、久しぶりだなあおビール様。冷やして、夜にぐびっと……。
「二本、かぁ」
買い足す……いや。いくら収入が向上したとはいえ、贅沢できるほどの余裕はない。俺が自由に使える金など雀の涙。というか、浮いた金があれば貯蓄に回す。人を雇用していくとなったら、貯めておかねば後が怖い。
ひとつ大きく深呼吸し、うわっついた気分を改めた。安全運転で軽トラを走らせ、自宅に戻る。
「ただいまー。今回もばっちりだったぜー」
「お帰りなさい先輩。あら? その袋は?」
エプロンつけた小百合に指摘されたので、そのまま差し出す。
「と畜場の所長さんから頂いた。二本あるし、冷やして夕飯時に二人で飲むといいよ」
「そんな、先輩の分は?」
「俺はいーから」
などと言っていたら、奥から勝則が顔を出す。
「おや、良いものいただきましたね。では、夕飯になったら三人でグラスでいただきましょう」
「それです、兄さん!」
妹はにっこり。だが俺としては素直に頷けず。
「おいおい。それじゃあろくに酔えないじゃないか」
「まあ確かにそうですが。缶一本に増えてもたかが知れています。それに、ビールというのは初めの一口が一番美味しいもの。酔いたいなら、別のものに切り替えるべきです」
まあ、たしかに。いたなあ、大学時代。ピッチャーでバカみたいに頼むやつ。そしてベロンベロンに酔っぱらって他人に迷惑かけるやつ。俺は介抱する側だったから余計に覚えている。
「そういえば先輩。この間、焼酎の大きなボトル買ってきてたじゃないですか。安売りだったって。あれはいかがです?」
「……そういえば、あったな。忘れてた」
ここで意地を張り合ってもつまらない。二人の好意に甘えておくか。
「それじゃあ、明日は休みだし。久しぶりに飲むか」
やったー、と喜ぶ兄妹。我が家の休みはと畜場のそれに合わせることにした。理由はシンプルに、ケイブチキン買い取ってもらえないからである。
そんなこんなで日が暮れて。
「今日もおつかれさまでした! 目指せ起業、俺たちの未来はこれからだ!」
「先輩、それ、打ち切りエンドです」
「縁起でもないな! ともあれ、乾杯!」
「「乾杯!」」
よく冷えたビールを喉に流し込む。ああ、美味い。人と一緒に飲んで酒が美味いのは久しぶりだ。会社を辞める前は、社内の連中と飲み会ばかりだった。気の休まらん相手と飲む酒ほど不味いものはない。醜態を晒したら何を言われるかわかったものじゃない。
実際、酒の席でやらかすと何かにつけてネタにしてくる連中だった。そういう所が、付き合っていて苦痛だった。
あっという間にビールが尽きる。から揚げが美味い。ビールが進んでしまった。しかたなし。小百合が焼酎を水割りで作ってくれたのでそちらに変える。
「お前ら、前の会社どうだった?」
何気なく話題を振れば、二人はそろって表情を曇らせた。
「ほかに労働場所があれば、全力で転職したくなるところでしたね」
「早起き、通勤ラッシュ、始業時間前清掃、出勤打刻制限、お局様の嫌味、上司のセクハラ発言、同僚からの仕事の押し付け、納期短縮。うう、頭が、頭が」
「俺が悪かった。から揚げをやろう」
「わあい」
小百合がだいぶ参っていた。こんなふうになれたから言えるが、会社が物理的に傾いてよかったんじゃなかろうか。
「そういう先輩はどうでした?」
「ん? まあまあブラックだったな。残業代出ないし、昇級もないし、有給もない。風邪で休めばガン詰で怒られるしな。いつかインフルエンザかかったら、そのまま出勤して壊滅させてやろうとは考えていた。もちろん、自分が悪くならんように工作して」
「あー。それ私も考えましたー」
「あとまあ、色々な黒い記録とっておいていつか労基にぶちまけようとは思っていた。ダンジョン管理で抜けることになったからご破算になったが」
「やればよかったのにー」
「時間を取られるのが嫌だったんだよ。……おいかっつん、サッチーがだいぶ回ってるぞ」
見れば顔がずいぶん赤い。こんなに弱かっただろうか?
「今日はちょっとペースが早いようですね。気を抜いて飲める機会など、卒業してからありませんでしたから」
「ああ……まあ、お前らはなあ」
互いに苦労があったようだ。そう思いながら、グラスを傾ける。焼酎は普段ほとんど飲まないが、今日ばかりはとても美味く感じた。
取り留めない話をしながら、酒盛りを続ける。俺もそれほど強くないから、いい加減酔いも回る。頭が重くなり、気が付けばテーブルに大分近くなっていた。
「うー、あー……」
「先輩、そろそろその辺で。はい、こちらお水です」
「ありがとうよ、かっつん」
氷の入った冷たい水が、たまらなく美味く感じる。視界が揺れる。大分酒が回った。こんなに飲んだのは本当に久しぶりだ。
「先輩は、大学時代もそこまで飲んだことはありませんでしたね」
「ああ……まあ、あの頃も、気を抜ける状態じゃなかったから。ほら、OBやら先輩後輩同期が、お前ら狙ってたし」
この兄妹は、それはもう人気があった。なので飲み会に良く誘われていたし、そのまま酔い潰して持って帰ろうと画策する連中は沢山いた。
「知ってますよー。先輩がそういう人たちを、率先して酔い潰してくれたことも」
途中からセーブしたためか、小百合の方は先ほどよりしゃっきりしている。俺とは大違いだ。
「そのおかげで、自分たちが連れ出されることも大きく減りました。本当に、ありがとうございます」
「あー。あれはなー。連中を酔い潰して、メシを独占するという邪悪な作戦だったからー。お前らの為じゃないからー」
と、誤魔化してみるも通じず。なんだかどうでもよくなって、グラスから氷をひとかけら口に含んでかみ砕く。
「思えば、大学時代から先輩にはお世話になってばかりでした。経済的に困窮していた自分たちに、食べ物を何度もいただいたり」
「あれもなー、わりとやっちゃダメなやつでなー。バイトの廃棄弁当をチョロまかしてなー。だから懐は痛くなかった。気にすんな」
バレたらクビだった。もしかしたら損害賠償請求もあったかもしれん。そこまで行ったら大学辞めさせられていたかも。我ながら危ない橋を渡ったものだ。
「借りはいつか返してくれればいい。先輩は私たちにいつもそうおっしゃっていました。そうこうしているうちに卒業し、会社の忙しさで疎遠に。未だ恩返ししきれていません」
「あー? そりゃあ、ダンジョン手伝ってくれてるし、一緒に起業するし。それでもうよくねーか?」
ぼやけた目で二人を見る。気が付けば、いつも以上に真剣な顔をしていた。
「良い訳が、ありません」
「先輩は、どうして私たちにこんなに良くしてくださるのです?」
……誤魔化せる雰囲気ではない。酒が回って気分がよく、だいぶタガが外れている。恥ずかしさやら何やらで、いつもは口にできない言葉が零れ落ちる。
「これだっていう、明確なものは出せないけど、いいか? 酒がだいぶ頭に回っている」
「構いません。思いつく限りを、どうぞ」
ふう、とアルコール交じりのため息をついて訥々と語り出す。
十年前。ダンジョンが世に現れたあの頃。自分は思春期ドストライクだった。同時に、家庭環境がよろしくないと自覚した時期でもあった。
自分には姉がいる。外見がよく、成績優秀。両親は姉をチヤホヤし、俺に対してはおざなりだった。自分が姉より愛されていない。子供のころから感じていた事を、よりはっきり理解した時期だった。
そんな状態だけに、ダンジョンという未知の空間にはロマンを感じた。物理法則を超越した、ファンタジーの世界。世間は混乱していたが、そんなのは自分に関係ない話。
根拠のない、子供らしい妄想。ダンジョンを冒険し、英雄のように強くなる。たくさんの財宝を手にして優雅に、幸せに暮らす。夢は際限なく大きく膨らんだ。
「……そして、テレビから伝えられる惨事に音を立てて希望が爆ぜた」
ビッグアントに噛みつかれて、大けがを負う人々。さらに奥に潜った兵士たちが、モンスターによって重傷を負ったり死んだりするという阿鼻叫喚。戦いの専門家すらこうなるのなら、自分だったらどうなる? そんな想像ができないほど子供じゃなかった。
そして、許容量を超えたダンジョンから吐き出された怪物達による都市の蹂躙。電柱、家、ビル。コンクリート製の建物が、無残に食いつぶされていく。空飛ぶ怪物により、民間人に多大な被害が及ぶ。
嫌でも理解する。ダンジョンに詰まっているのは絶望だ。希望を持つのが間違いなのだと。夢が大きかっただけに、潰れたショックは大きかった。
「夢から目をそらして現実を見れば、変わらず蔑ろにされる家庭環境。いい加減離れたくて、大学に入って親元から離れようとした。その頃になると、クソ環境を逆に利用する方法も思いついていたな。『俺が大学行かずに就職して、後ろ指差されるのは誰だ?』と囁けば、渋ってた親も首を縦に振った。今思えばひどいことをいったなあ」
「ご両親に対してですか?」
「いや。高卒、中卒で就職している人たちに対して。職業に貴賎なし。まっとうに働き日本経済を回す。加えて納税までしている。まことに素晴らしい。あの頃は、大卒エライという家族の偏見に毒されていた。反省だな」
そうして、特に学ぶ意志もないのに大学へ逃げ込んだ。一応、世間体を整えるために学生としての本分はまっとうした。家族にとやかく言われたくないという思いが大きかったかもしれない。
そんな風に過ごして一年。御影兄妹と出会った。まあ、衝撃だった。こんな事があっていいのかと。
外見よし、成績優秀、運動神経抜群。人当たりよし、人気あり、金が無いのが玉に瑕。天から二つも三つも貰い物をしているような恵まれた存在。だというのに、栄達からは程遠い。バカ共にまとわりつかれ、いつも苦労している。
これだけすごいのに、楽には生きられない。勉強も運動も人付き合いも、苦労しながらこなしている。ひどい話だった。あまりにも夢がない。
そしてそんな夢のない話は何処にでも転がっていて、誰にでもぶつかりうる。当たり前の話を今更ながら理解した。そうなれば、自分がいかに甘えていたかも自覚してしまう。
まるで己を不幸話の主人公であるかのように考えていた。全くもって馬鹿馬鹿しい。誰も彼も、順風満帆であるはずがない。特にこのご時世だ、何かを得たいならば奮起して手を伸ばしていかねば何もつかめない。
俺はそれすらしていなかった。親から愛を与えられない? 寝言の極みだ。一体いつまでガキでいるつもりだと。
猛烈に、恥ずかしかったのを覚えている。己を変えたいと、あれほど思ったのは初めてだった。
「……で、まあ、なんだ。目を覚まさせてくれた相手だし。苦労しているようだし。コンビニバイトやっててちょうど良かったし。まあ、そんな感じだ。結局は自分の為だ。ぶっちゃけ、先輩風吹かせるのもどうかと思う。我ながら、恥ずかしい限りだ」
酔いに任せて、本音をぶちまける。カッコ悪いことこの上ない。
「本当に、それだけなんですか?」
それでも、勝則が真っすぐ問いかけてくれば答えざるを得ない。
「お前らが、なんか特別な事情を背負ってるのはなんとなーく気づいていた。あくまでそれっぽい何かがある気がするってだけで具体的な内容はさっぱりだ。調べてもいない。俺にスパイ映画みたいな働きを期待されても困る。こちとら簡単なサギに引っかかるような間抜けだぞ」
語り続けたおかげか、水に切り替えたおかげか。少しばかり酔いがさめる。改めて、最近の己を振り返る。……ダンジョン管理しなきゃならなくなって、家族を頼ろうとしたのもまた甘えだったな。
……いやでも、即行で家族の縁を切ってきたのはひどいよな。外道の所業だと思う。やっぱクソだわ俺の親。
「なんでまあ、うん。そんなフワっとしたアレだから、気にするな」
「気にします。他の誰が何と言おうと、私たちは先輩に感謝します」
小百合が、そして勝則がこっちに頭を下げてきた。……まったく。楽な人生じゃ無かったろうに。どうすればこんなに真っすぐ育つのか。
「ああ、じゃあまあ、今後ともよろしくってことで。俺は寝るぞー。歯磨いて寝るぞー。風呂入っておいてよかったなあー」
まだふらつく足で、居間を去る。流石にこの場に残り続けるのは恥ずかしかった。
/*/
しばらく後。春夫が自室で寝息をたてはじめたのを見計らって、兄妹はやっと気を緩めた。
「兄さん、
「反応なし、だ。先輩は本音で語っていた。この呪文は、本人が嘘を信じていれば反応しないが……あの話にそういったものが入り込む余地はなかった」
勝則は、開発したばかりの魔法を過信していなかった。そもそも、精神に係る呪文は論理魔術基礎知識の本に記載されていない。本から学んだ知識から推察し実践、己で組み上げた呪文だ。
精度その他には改良の余地がある。信じ切れるものではない、というのが勝則の結論である。
なお、当然の話であるが。現代社会において自ら呪文を作り上げられる人物は基本的にいない。この基礎知識を国家に伝えた『異世界人』を除けば、世界でも片手で数えられる程度である。
小百合は深くため息をついた。
「……先輩を疑うなんて、恥ずかしい限りです。本心で、善意で。私たちを助けてくださったのに」
「先輩を疑うんじゃない。俺たちに向けられる害意、敵意を警戒しているに過ぎない。これからは、今までとは違うんだ」
勝則の手の中に、小さな風が渦巻く。魔法の力、呪文。
「俺たちがこれを手にした。あの異世界人のように、何かに気づく者が現れても不思議はない。そして、今度は逃げるわけにはいかない。先輩を置いて、それはできない」
「そう……ですね。私たちが、守らないと」
「ああ。俺たちの為、先輩の為、だ」
春夫に見せぬ、冷酷なまなざし。決意と覚悟が二人の瞳に宿っていた。
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