第3話 この瞬間を踊ること

地球は時速約10万7,000kmで太陽のまわりを回っている。

この星は約1,700kmで自ら回っている。


人間は時速8キロメートルで走り、時速4キロメートルで歩く。

こんなにちいさいからだでは、たいした場所にはいけない。


だったら、いっそここで踊ってしまおう。

雨が降っても、踊りをやめない。


踊るように生きたい。

この瞬間だけ、この景色だけ、この空気だけ、このひととだけ踊るように。


ダンスするということは、マインドフルネスなのだと思う。

踊っている最中に、10年後のことなんて考えていない。


能天気に生きたいという意味ではない。

ただ、私達は真面目すぎる。

肩は凝るし、腰は痛いし、目は疲れている。

重いかばんを持って、きついスーツを着て、駅の階段を駆け上る。

もっと楽に生きてもいいんだよ、というのは簡単なことだ。

それができないからひとは病むし、痛むし、傷つくのだろう。


だったら、せめて踊ってみよう。

電車が次の駅に着くまでの間。

カップラーメンができるまでの間。

テレビで体操が流れている間。


さあ、一緒に踊ろう。

踊っている間は、ひとは自殺しないのだから。

たった一瞬でも、その瞬間だけでも、ひとは、悩みを忘れられるのだから。

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私達は永遠じゃないから @kazashi

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