エピローグ


 翌日ノアは実家に二通目の手紙を書いた。

 前に書いた手紙はレイムが言った通りに書いただけだったから。今度は自分の言葉で書こうと思った。

 魔法使いの勉強を続けています。

 あとは、今、とっても幸せです、って、書いた。


「ねぇ、レイムさん、鳩くんに手紙送ってもらってもいい」

 ノアは書いたばかりの手紙をレイムに渡した。いつも通りレイムは店のカウンターで薬を作っている。

「別に構わないが、それより、私は貴様に言いたいことがある」

 ノアはカウンター越しにレイムと向き合う。


「う、うん?」

「ノア……」


 レイムの妖艶な紫の瞳が細められた。

 嫌な予感がした。目の前のレイムは、恋人じゃなくて師匠の顔をしている。


「私は、一人で地下室へ入るなと言ったはずだか?」

「え、あ……だって、あのときは……その」


 昨夜、ノアはレイムの使い魔になるため一人で地下の部屋に入った。レイムはノアが約束を破ったことを忘れていなかったらしい。


「言い訳は無用。罰は、罰だ」

「え、あ!」

 ノアの目の前はたちまち真っ暗になる。常闇の魔法を使われたのは、これで二度目だった。


「しばらく入って反省しろ。お前は、本当に私の気持ちを理解しない」

「わ、分かってる、よ」 

「ほぉ、じゃあ、出てきたら反省文でも書いてもらおうか」

「は、反省文!」


「しかし、お前は、本当に文章が下手だな。手紙くらいまともに書けないのか。それに大事なことを書いていない」

 レイムは暗闇の向こうで、ノアが送ろうとしていた手紙に目を通しているのだろう。ダメ出しが飛んでくる。


「ちゃんと近況だって書いてるし、何も抜けてることなんて」

「結婚した。が抜けているな」


 暗闇の外から呆れたレイムの声が降ってきた。

 その素っ気ない言葉で、ノアには正しく伝わる。


 レイムがどれくらい、ノアのことを大切に思ってくれていたか。

 人間でも猫でもない、ノア自身を深く愛してくれていること。

 ――温かく優しい気持ちになるレイムの常闇に、ノアは永遠に囚われる気がしている。


              


                 おわり



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