才能がなかった俺は、仲間をS級に導き、『花園の批評家(レビュアー)』と呼ばれるようになった。

マボロシ屋

1章 新たな目標、新たな蕾

1:戦闘における俺の役目#

「うっ、らぁあああ!」


ガウルが剣を振り抜き、魔素をまとった剣圧が魔物にせまる。


うなれ雷撃! はしれ衝撃!」


ノインが詠唱を終え、雷撃を放った。


「盗賊の手数を甘く見ないで、よ!」


 アリアがナイフを投げて魔物に突き立てる。直後に跳躍ちょうやくした勢いでナイフを踏んで、深々と魔物に刺し込む。


「ユリアちゃん、一緒に射抜いて!」


 クロエが毒物の入った試験管を投げる。


「ヘビーショットっ!」


 ユリアが弓矢をつがい、引き絞って放つ。


「…」


 俺はただ、隣に立つイリアと共に、その光景を見ていた。


 C級の魔物を前に、出る幕がない。

 というか、ここ最近はまともに戦闘した記憶もない。


 魔素による成長も15歳から探索者になり、17歳以降されてないだろう……実に無能者らしい結果だ。


 きたえてはいるが、やはり限界――潮時しおどきか……


 中衛も戦闘指揮も彼女達には要らなくなってしまった現状、俺は別の方向を探るしかない。


 ――戦闘終了。

 あっけないものだ。


 それでも、仲間たちの動きは、かろうじて追えていた。

 完全に把握はできないが、戦闘の流れを読むくらいはできる。


「ノーマ、どうよ!オレの剣筋!直接見るのは久々だったろ!」


「そうだね、俺達でそろって出かけたの大分前のダンジョン…D級の狂犬小屋マッドドッグハウスだしね…剣筋は綺麗きれいだったと思うけど、少しブレたんじゃない? C級だしね」


 ガウルの剣筋とか、正直まともに追える速度ではない。

 それでも、かすかな乱れには気付けた。


「ノー兄、私の魔術見ましたか?上手くなったでしょ?」


「そうだね、綺麗に光が降ってきたね…ただワンフレーズでも発動できたらすきが減らせて良いよね」


 ノインの魔術と魔力量の質は、はっきりとは分からない。

 あふれる魔力を厳密に測ることはできないが、詠唱えいしょうひそむ隙だけは拾えた。


「ノーマ君、アタシはどうだった?どうだった?」


「そうだね、ナイフだけじゃなく体術も凄くなってたね」


アリアの跳躍ちょうやく、ナイフを踏み抜く脚力。

普通の目では見えない速さだが、その軌道きどう余韻よいんを、俺はかろうじて捉えていた。

 当然、それらが規格外だって事も判断が付く。


「ノーマさん、お怪我は無いですね?戦闘中の破片はワタシがこちらに来ないよう払っておいたのですが」


「そうだね、特に問題なかったよ。砂煙が舞ってたけど、そのくらいかな?」


 イリアの護衛も完璧だった。

 破片をはじく動作そのものは見えなかったが、その結果だけは、しっかりと実感できた。


「お兄ちゃ、お兄さん、わたしの力、役立ったよね?」


「そうだね、毒物を投げた位置も敵の眼前だったしね。次からは出来れば貴重な目玉を2つ取れるようにしようか」


 クロエの毒薬はすさまじい。

 魔物の顔面をかしていた。


 その威力の理屈は分からないが、効果は確かだった。


「お兄……さん、あたしの狙撃そげき威力いりょくどうだったかな?」


「そうだね、動いている敵の目を狙って撃ったね。後は速射、連射ができると良いね」


 ユリアの矢は、速く鋭く、魔物の目を正確に射抜いていた。

 その一閃いっせんを、俺はかろうじて視界に捉えた。


 そもそも今回の魔物はCランク。

 Cランク冒険者なら、もう少し時間をかけて倒す魔物だ。


 それにこの階級の魔物は戦闘時に魔力を身に纏う。並大抵の攻撃なら弾かれていただろう。

 それを、発見から十数分で殲滅せんめつする。


 俺とどれだけの能力差があるのか……彼女たちとの能力差は、もう計り知れない。


 俺は冒険者パーティー『開花ブルーム』の戦闘後の批評レビュー以外、何もできなかった。


 だが、戦闘の流れを読み取る力、それを支える知識と経験。

 ……そのわずかな力が、支える手助けになるかもしれない。


 まだ俺にも、直接的な戦闘以外で出来る事が残されている。


 王都に戻り次第、俺はクラン創設に向けて動き出そう。

 そう決めたのであった。



 これが、俺がクラン創設を決めた――3年前の記憶だ。




★☆★あとがき★☆★

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