第35話 シンクロニシティ

 彼女は川村と言った。名前はリサではなかった。よく聞けば、作屋守と同じ大学、しかも同学年だった。学部も同じ。学科が違っていた。彼女も作屋を見た記憶はないと言った。学部で三百名弱、作屋守と川村の学科で言えば合わせて百名強。小学や中学と言った地域限定とは違い、全国各地から集まるのだ。百と言っても知らない、記憶にないことは不自然ではない。

(とはいえ)

 さらには、彼女の住所たるや、作屋守のアパートの隣の丁と言うではないか。同期ならば新入社員の新人研修とかで会っているはず。いや違う。彼女は中途採用らしい。だが、部署が違うとはいえ、出勤時間や退勤時間も大差ないはず。これほどの彼女が近所にいてすれ違いもしないとは。運命めいた縁とやらを持ち出して頬を紅潮させる作屋守に聞かせてやればいい。「○○市○○在住の容疑者××が」とかニュースで作屋守の近所がアナウンスされてその人が必ずしも作屋守が知っている人とは限らない、と言う点を、だ。川村があまりにリサに似ているため、論理も平静もへったくれになってしまうほどうかれとんちきになってしまっていたのだ。新プロジェクトチームで景気づけの飲み会の席上、そんな情報を得て、作屋守は酒なのかなんなのかに酔った。

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