第14話 業務終了

 仕事と言ってももう調査は終わっていたし、報告書の類は部署に戻ってからになっている。午前中に行うのは役所の方とのミーティングだった。今後の予定とか。

 とはいえ、作屋守はもはや心ここにあらずになっていた。リサに別れの言葉をかけただろうか。再会の約束をしなかっただろうか。連絡先の交換はしなかっただろうか。スマホには何の形跡もなかった。

「作屋さん、本当に大丈夫ですか?」

 先方に尋ねられるのは三回目だった。

「やっぱり少し顔色悪くないですか?」

 二日酔いはなかった。朝食は普通に食べた。宿の主に感謝を述べることができた。けだるさもない。足取りが重いのは体調のせいではない。あえて言うなら肩が凝っているくらいだ。腰が痛いなんてこともない。

「大丈夫です。ではあとはメールと電話で」

 早々に切り上げた。ファイルに書類をまとめて鞄へ入れる。

「ところで作屋さん、いかがでしたか? 滞在中面白かったところとかありましたか?」

 おべんちゃらを言うわけではないが、仕事上の取引先である以上心証を悪くして帰るわけにはいかない。なにせ、役職に就いているわけではない。問題どころかトラブルが起きても責任が取れるわけではない。さすがと海鮮料理の美味さを感想としておいた。「ところ」と問われてそれは具体的な場所とは限らない。それに先方は作屋守の業務日程を知っている。観光に巡れる時間なんてないことは逆算できる。だから、解答としては満点である。先方はすっかり作屋守の顔色なんぞ気にも留めてない。ご機嫌な様子を狙って、作屋守は一つ聞いておくことがあった。仕事は終わった。先方から当地の印象の質問があった。この流れを待っていたのだ。すなわち、リサの宿と飲み屋のことだった。

「あー、その辺あんまり行ったことないんでよく分からんですわ」

 地元でなければ、いくら島内とはいえ熟知しているわけではない、そんな当たり前のことを作屋守は失念していた。言われてみれば確かにその通りだ。この人があの辺の住民なら宿に顔を出すか飲みに誘われているはずだ。これ以上訊く必要性がなくなり、鞄を担いだ。荷物類はすでに発送済みだから、身軽なものだ。

「では、失礼します」

 取り繕った快活で挨拶をする。先方も頭を下げる。作屋守が部屋を出るか出ないかの時、

「でも、あの辺に今やってる飲み屋ってあったっけか」

 彼の独り言が鮮明に聞こえた。

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