## パート8: 第一関門:罠と連携

薄暗く湿った空気が肌にまとわりつく。「試練の洞窟」の内部は、予想以上に陰鬱な雰囲気に満ちていた。松明の頼りない明かりが照らし出すのは、ごつごつとした岩肌の壁と、どこまでも続いているかのように見える狭い通路だけだ。


「ゴビー、頼む。先行してくれ。何かあったらすぐに知らせて」

「わかった、ゴブ!」

ゴビーは短い返事と共に、音もなく闇の中へと駆け出した。彼女の小さな背中はあっという間に暗闇に吸い込まれて見えなくなる。ゴブリン由来なのか、彼女は暗闇の中でもかなり目が見えるらしく、斥候役としてはこれ以上ないほど頼りになった。


僕とぷるなは、ゴビーからの合図を待ちながら、周囲を警戒しつつゆっくりと後を追う。ぷるなは僕のマントをぎゅっと握りしめ、不安そうに辺りを見回している。

「大丈夫だ、ぷるな。ゴビーが先に見てくれてるから」

僕が小声で言うと、ぷるなはこくりと頷くが、その表情はまだ硬い。


しばらく進んだところで、先行していたゴビーが息を潜めるようにして戻ってきた。

「ボス……あそこ、なんか、へん」

ゴビーは前方の通路の床を指差した。松明の明かりを近づけてよく見てみると、確かにその部分だけ、敷き詰められた石の色が僅かに他と異なり、不自然に平らになっている。


(罠か……!)


ゴブリン戦の経験から、こういう不自然さには敏感になっていた。おそらく、踏むと作動する感圧式の罠だろう。落とし穴か、毒針か、あるいは別の仕掛けか。どちらにしても、まともに踏めばただでは済まないだろう。

他のパーティは気づかずに突っ込んで、もう引っかかっているかもしれない。ゴビーの索敵能力に感謝だな。


問題はどうやってここを突破するかだ。迂回路は見当たらない。罠を解除するようなスキルは僕にはない。幅もそこそこあり、跳び越えるのは難しそうだ。

(……ぷるなの力で、何かできないか?)

僕は隣にいるぷるなを見た。彼女の液状化能力なら、何か応用できるかもしれない。


「ぷるな、あの罠の上を、俺たちが安全に渡れるように、何かいい方法はないかな? 例えば、ぷるなの体で……」

僕は言いかけて、はたと思いついたアイデアを口にするか迷った。だが、その前に、ぷるな自身が何かを考え込んでいる様子に気づいた。彼女は罠と対岸をじっと見比べ、そしておそるおそる口を開いた。

「……あのね、よーすけ。もしかしたら……こう、できるかも……?」

ぷるなはそう言うと、罠の手前で集中し始めた。彼女の体が淡い水色の光を放ち、片方の腕がするすると液体状に変化していく。そして、その液体状の腕は、まるで生き物のように対岸に向かって伸びていき、対岸の岩肌にぴたりと張り付いた!


「おぉ……!?」

僕とゴビーが驚いて見守る中、液体状の腕はそのまま形状を維持し、罠の上空に細い、しかし弾力がありそうな半透明の「橋」を形成したのだ!


「すごいぞ、ぷるな! 橋だ!」

「ぷるな、すげー! ゴブ!」

僕たちが賞賛の声を上げると、ぷるなは「えへへ……」と少し照れくさそうに、しかし嬉しそうに笑った。訓練の成果と、彼女自身の発想が生んだ、見事な応用技だった。


「よし、ゴビー、先に渡ってくれ! 橋が安定しているか確認しながら慎重に!」

「まかせろゴブ!」

ゴビーは自慢の身軽さで、ぷるなが作った橋の上を軽やかに渡っていく。橋は少し揺れたが、ゴビーの体重を支えるには十分な強度があるようだ。


「大丈夫そうだ、ボス!」

対岸からゴビーが合図を送る。

「よし。ぷるな、俺も渡るぞ。橋、維持できるか?」

「うん、がんばる……!」

ぷるなは額に汗を浮かべながらも、必死に橋を維持している。僕は彼女を励ますように一度頷き、慎重に橋へと足を踏み入れた。ぷるぷるとした独特の感触が足裏に伝わる。足元には作動すれば危険な罠。緊張しながらも、僕はバランスを取り、数歩で対岸へと渡りきった。


「……ふぅ、やったな!」

僕が渡り終えると同時に、ぷるなは「ぷるぅ……」と疲れたような声を漏らし、橋を元の腕へと戻した。相当、集中力を使ったのだろう。

「ぷるな、よくやった! すごいぞ! 君のおかげで突破できた!」

僕は彼女の頭を何度も撫でた。ぷるなは疲れているはずなのに、満面の笑みで僕を見上げる。


最初の関門は、ゴビーの索敵、そしてぷるなの機転と能力応用、僕の(結果的な)サポート。まさにチーム連携が生んだ勝利だった。訓練の成果が、予想以上の形で現れたことに、僕は大きな手応えを感じていた。


(よし、この調子でいくぞ!)

僕たちは確かな自信と、仲間への信頼をさらに深め、再びゴビーを先行させ、洞窟のさらに奥へと進んでいった。

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