第4話 今どきの推し活は、おしゃれにも気をつかう

 物販が済むと、ふたたび新横浜駅へ。そして駅ビルのレストラン街へとやって来た。


 横浜に来たら、やっぱり中華でしょう!

 ということで、この日の昼食は堅焼きそばに決定。


 どうやらこのお店、中華街にも軒を連ねる名店らしく、普通、麺の上に熱々の餡をかけるところを、逆に、熱々の餡の上にカリカリになるまで焼いた堅い麺を乗せるという、独自のスタイルを誇っていた。


 いただいてみると、やっぱり美味しい。


 出かけた先で、その土地の食事を存分に楽しむ。

 それもまた、推し活の醍醐味のひとつなのだ。




 さて、今回のライブは、開場が午後1時、開演が3時となっている。

 僕は食事を済ませると、開場の時間に合わせて、横浜アリーナに戻って来た。


 さっそく中に入り、まずは座席を確認する。今回はスタンド席だから、ステージまで少し距離がありそうだ。


 横浜アリーナは、縦型の楕円形。収容人数は最大で17,000人ほどらしい。大きすぎず、小さすぎず、手ごろなサイズ感。駅近で音響もすばらしく、僕の好きな会場のひとつだ。


 座席の位置が分かると、今度はフラワースタンドの見学へ。


 通路に沿って並べられた彩り豊かなフラワースタンドの数々を眺めていると、しぜんと心が温かくなってくる。


 なにせファンの人たちから推しのアイドルへ、精一杯の愛をこめて贈り届けられたフラワースタンドだ。さまざまな趣向が凝らされ、推しを描いたイラストも可愛らしくて、微笑ましくなってしまう。


 特に新田小鈴ちゃんのフラワースタンドを見つけると、遠い異国の地で同郷の人に出会ったような感動を覚えてしまう。


 同担の人たちと小鈴ちゃんの魅力について語り合えたら、どんなに楽しいかと思う。

 僕はあいにく人見知りのぼっち勢なので、そういう機会にはほとんど恵まれないのだけれど。

 感動をひとりで嚙みしめるのもまた、よいものだ。




 周囲に目を移してみると、実に幅広い年齢層の人たちがいる。


 気づけば僕も年を重ね、周りにいる大勢の若い人たちに比べると、年上の層に分類されるようになってきた。


 だからだろう、自分より明らかに年上の白髪のおじさまを見かけたりすると、ホッとしたりもする。僕もまだここにいていいのだという安心感が、頼もしいのである。


 僕が推している『クリアマリン』のライブの場合、やはり男性のほうが多いのだけど、女性ファンの姿も少なからず目にする。


 普段着だったり、ライブのTシャツを着ていたり、推しのアイドルの衣装に寄せていたり。それぞれ恰好こそ異なれど、おしゃれで綺麗な人は多い。


 僕は推し活を通して、少しは見た目を気にするようになってきた。


 たとえば、ライブの日に合わせて美容院に行き、髪を整えたりする。


 もちろん、小鈴ちゃんが僕を認識するわけでも、直接会話を交わせるわけでもない。

 それでも、推しに会いに行く以上は、ちょっとはかっこつけたいのである。

 もっとも、周囲の客層に合わせて、僕も少しは若く見られたいという願望もなくはないのだけれど。


 とにかく、推し活をしていると気持ちに張りが出て、心が瑞々みずみずしく潤い出す。


 もし、「オタクって外見をあまり気にしないのでは?」と思っている人がいたら、それはまったくの誤解だと伝えたい。


 推し活をしているからこそ、おしゃれにも気をつかう――。


 そんなオタクは案外多いんじゃないか、と僕は思う。


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