再会は幕開けのPrologue【序章】

それから数週間経ったある日・・・


会社を出た沙姫帆が、

歩道を一人で歩いていると・・・・


「気がつかないで、黙って行くのか?」

私は、聞き覚えのある声に戸惑う。

「エッ?」


道路脇に止めてある車窓から、

顔を出したのは、暁だった。


「乗れよ。」


何が起こったか理解できず、

沙姫帆は、言われるままに、

助手席に乗り込んだ。

それを確認した暁は、車を走らせる。


暫くして、暁が沙姫帆に、話しかける。


「吃驚したか?」

「うん、吃驚した。」


俺は、あの時の喧嘩の後の事を、

心の底では、とっくに、許していても、

簡単に許されたと鞠谷に思われるのは、

今までの関係が繰り返されるのは、困る。


随分、鞠谷には、振り回された。

でも、鞠谷を忘れる事も、

嫌いにもなれなかった。


今回も、手紙一つで、飛んで来てしまう、

(だけど、少し時間を置いたつもりだ。

俺の気持ちも複雑だった。)

自分がそれを証明している。


・・・・・おっと、何か話さないと、

鞠谷が、泣いちまいそうだ。

「職場、変わってないんだな。」


戸倉君の話し方に、彼の考えが掴めず、

つい、他人行儀な言い方になった。

「そう。」


すげぇ、硬い表情。俺を警戒しているのか?

捕って食ったりしないけどな・・・・

『食う』そうだ、俺は、誘いをかける。

「飯、食ったか?」


「・・・・まだ。」

何で、今、ご飯の話なのかな?

もしかして、怒られないのかな?


「食べに行くか?」

当然、会社を出たばかりの鞠谷が、

夕食を食べている筈・・・無いわな。

言って直ぐ、バカな質問をしたと後悔した。


エッ?食事に誘われたって事?

な、何で?・・でも、行きたい。

「・・・・ハイ。」


後悔した俺に構う余裕などなく、

鞠谷のロボットみたいな硬い態度に、

俺は、思わず苦笑した。

「クッ、鞠谷を捕って食ったりしないよ。」


その戸倉君の言い方が、

懐かしさと優しさに溢れて聞こえて、

私は、ホッとした。

「・・・うん。」


それでも、まだ、信じられない私は、

戸倉君をじっと見た。


変わってないな、しいて言えば、

男っぽくなった?

中学の頃から、大人っぽかったよな、確か。

今の私を見て、どう思ったかな?

等と思っていると・・・・


「鞠谷。恥ずかしいから、じっと見るな。」

『鞠谷』と呼ぶ、懐かしい響き。

当時から、私は、恥ずかしくて、

戸倉君とさえ、呼べなかったなぁ。


戸倉君は、手紙では名前を書いてくれたね。

私の誕生日に手紙をくれた時、

『沙姫帆ちゃん』って、書いた後、

もう、『ちゃん』じゃあない、

『沙姫帆さん』って書かなければ・・・

っていう内容があって、

それが、

何故だか印象に残って、嬉しかった。

等と、思っていたら、

再び、戸倉君に呼ばれた。


「鞠谷」

「あっ、ゴメンね。」


慌てて、沙姫帆は、前を向いた。


懐かしい昔話や、近況報告をしている内に、

食事も終わり、

暁は、見晴らしの良い所で、車を停めた。


「外に出ようか?」

「うん。」

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