神様学園 -天使と悪魔の卒業課題はつがいになること!?-

遊馬テト

第1話-天使と悪魔の卒業ペア!?神様学園は今日も大騒ぎ!-

「二人の卒業試験の課題は……天使と悪魔でつがいになることだ」

ここは天界の『神様学園』神様を育成するための学校である。

今、この学園の卒業試験に挑もうとする二人、天使のアルティアと悪魔のリュミリア。

「やったぁー、リュミちゃんとつがいなのですの」真っ白な羽根をパタパタと羽ばたかせ、両手を天に掲げて喜ぶアルティア。

一方「なんで、うちがアルティアとつがいやねん! ありえへんわ!」真っ黒な羽をバサバサと羽ばたかせながら、文句を言うリュミリア。


――時は遡り三日前


神様学園三年A組では、卒業試験の話で持ちきりになっていた。

この学園の卒業試験は、生徒それぞれに違った課題が与えられる。

そのため、クラス中で予想合戦が繰り広げられていた。


「ねぇ、今年の幸運者と不運者を予想しようよ」

ヴァンパイアの生徒が隣に座る獣人の生徒に話しかけた。

吸血鬼特有の鋭い牙をちらつかせながら、不敵に笑うヴァンパイアの生徒。

一方、隣の獣人はふさふさの耳をピクピクと動かしながら、喉を鳴らす。

「ガルル……面白そう。やろう」

鋭い犬歯を見せつけるようにニッと笑い、前のめりになる。

その言葉に、周りの生徒たちも興味を引かれたのか、次々と集まってくる。

「幸運者は私! 不幸者はあなただ!」

「何言ってるのよ? 幸運者は私に決まってるじゃない!」

あちこちで、幸運者を主張する者、誰かを不幸者に仕立て上げる者が現れ、教室は一気に賑やかになった。


「はいはい、おしゃべりはそこまでですよ」

「席についてください」

ガラッと開いた教室の扉から現れたのは、このクラスの担任・ミカ先生だ。

軽く手を叩いただけで、生徒たちは「ヤバい!」と慌てて席に戻る。

それでもまだ名残惜しそうに話し続ける者もいた。

が、ミカ先生がじっと見つめると教室は、ぴたりと静まり返った。


「ねーねー、リュミちゃん、今年の幸運者はリュミちゃんだと思うのですの」

真っ白な羽根をパタパタと羽ばたかせながら、アルティアがヒソヒソと話しかける。

「あら? アルティアさん、まだ話足りないのかしら?」

ミカ先生がアルティアの背後から、静かな声で話しかけた。

「私と二人でじっくりお話ししますか?」

「ひ、ひぃぃぃ……ごめんなさいなのですのぉぉ!」


先程まで嬉しそうにパタパタしていた羽根を、思い切り広げ跳び上がる。

その勢いで、隣に座るリュミリアの鼻先をふわりとくすぐった。

「……くしゅんっ!!!」

くしゃみの音が響き渡る教室。

皆がリュミリアに注目する。


「……っ、ぷっ!」

耐えきれなくなった生徒が吹き出す。

「あははははっ!!!」

それにつられるようにクラス中が一斉に笑いはじめた。

リュミリアは恥ずかしそうに顔を真っ赤にし、アルティアを睨みつけた。


「はい、静かに~」

ミカ先生がもう一度、パンッと手を叩く。

そして、ゆっくりと教壇に上がり、黒板に何かを書き始める。

『今年はなんとっ! 二人一組でぇ~すっ☆』

威厳のある態度とは打って変わって可愛らしい文字が黒板に書かれた。

「威厳があるんか、アホなキャラなんかはっきりせえや……」

ぽつりと漏れたツッコミは、誰にも届かずに教室の静寂に飲み込まれた。


「ねぇ、二人一組って……」

「アルティアとペアになったやつが不幸者ってこと……?」

「……えぇ、そうだわ。だってあの子……」

ヒソヒソと話しているつもりなのだろう。

だが、静まり返った教室では、その囁き声がむしろよく響いた。


(アルティアが何も言い返さんから、言われたい放題やなぁ……)

リュミリアが最も嫌うのは――

確実に勝てる相手にしか手を出せない、卑怯な奴だ。

アルティアを庇うつもりなんてさらさらない。

だが、このまま黙っていたら、リュミリアの腹の虫が収まらない。


「雑魚の戯言や。気にせんでええで、アルティア」

わざと大きな声で、はっきりと言い放つ。

その瞬間、教室の空気が変わった。

誰も喋らない。誰も目を合わせない。

(……何やねん、さっきまでの威勢はどこ行ったんや)

リュミリアは「はぁ……」とため息をついて頬杖をついた。


しん……と静まり返った教室。

そんな空気を破ったのは……アルティアだった。

「えへへ~、ありがとぉなのですの!」

彼女はニコニコと無邪気に笑ってみせた。


「でもでも、貧乏くじじゃなくて、超レアくじかもしれないのですの!」

「……はぁ? 何言うてんねん、ほんまにアンタは……」

リュミリアは呆れながらも、そっと目を逸らす。

(ほんま、こんなアホを庇うなんて、うちも物好きやな……)

庇ってしまった事を後悔しながら「はぁ……」とため息をついて、チラッとアルティアをもう一度見る。

悪口を言われていた本人とは思えないほど、のほほんとした笑顔を浮かべて羽根をパタパタと揺らしていた。

もう一度「はぁ……」とため息をついて視線を黒板に向けた。


「さて、それでは、ペア割りを決めましょうか」

ミカ先生の一言に全員が息をのむ。

ペア割りは完全ランダムのくじ引きで決まる。

(人生かけた卒業試験のペア割りがくじ引きってどういうことやねん……)

リュミリアは、この制度にうんざりしながら辺りのざわめきを観察する。

生徒達はランダムに書かれた数字と自身が引いた数字を照らし合わせ、パートナーを確認していく。

「お、あなたとパートナーなのね! よろしく」

「えー、私リュミリアちゃんとがよかったのにー!」

喜ぶ者、不満を漏らす者、自分のパートナーを予想する者、様々な声が飛び交い、ざわついている教室。


その中で一際目立つ声が響いた。

「やったぁー、リュミちゃんとパートナーなのですのぉ」

周りの迷惑も気にせず、羽根をバサバサとさせながら歓喜の声をあげた。

「はぁ……アルティアとパートナーかいな。まぁ誰でも一緒やからええわ」

そう言って自分の席に戻り、再び教室の騒ぎを傍観する。

「リュミちゃん、リュミちゃん。えへへ、よろしくなのですのっ」

嬉しそうに隣の席に座るアルティア。

「そのリュミちゃんってのやめーや、ウチらそんなに親しくないやろ」

本来、天使と悪魔は相容れない存在。

それなのに、アルティアはなんのためらいもなく、当たり前のように近づいてくる。


(……わからん。こいつ、何考えてんねん……)


「はぁ……やってられんわ……」とつぶやき、机に突っ伏した。

隣では、そんなことなど気にもせず、アルティアがニコニコと羽根を揺らしている。


果たして、二人の試練とは一体……?

そして、二人はこの卒業試験を乗り超えられるのか。

こうして――

天使と悪魔の、予測不能な卒業試験が幕を開けた。

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