第22話 <介護老人保健施設 看護師によるインシデントレポートより>

 ※介護老人保健施設とは……入院を終えた高齢者などが、自宅に帰ることが困難な場合、入所する施設のこと。介護士や看護師も常駐している



<発生日・発生時刻>

 六月二十日 十時

<発生場所>

 階段

<概要>

 その日は車いすの患者を集めてイベントを催す日だったので、計十名ほどの患者を集め、昔の音楽を流したりしていた。スタッフは介護師・看護師合わせて三名いた。特に問題なくイベントは進んでいたのだが、途中で一番後ろに座っていた患者が後ろを振り返り、大声を上げた。

 そこに見知らぬ女性が立っていたので、スタッフは誰かの家族と思い、挨拶をしつつ近づいた。だが女性が尋ねてきたのは聞いたことのない女性の名前だったので、場所を間違えているのではないのかと説明した。

 ところがその直後、車いすの患者が一人ずつ突然叫び声を上げ、パニック状態に陥った。介護士が必死になだめるもまるで落ち着かず、とりあえず一人ずつ自室に帰そうという判断になり、早速介護士が一人の車いすを押して部屋から出た。

 その瞬間、三名の患者が突然自分で車いすを操作して動き出した。三名とも認知症が強く、ストッパーの解除の仕方すら知らないはずだった。

 止めようとする看護師と介護士を突き飛ばし、ものすごい速さで階段まで移動した三名は、躊躇いなく階段から車いすごと落下した。

 一名死亡、二名は骨折など重傷を負った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る