マジカルの11☆魔法少女は希望の光

〜語り手 しの〜


「うそ……ゆのが!

ゆのが死んじゃう!」


画面の中のゆのが苦しんでる。

潜水艦に搭載された魚雷に加えて光子の矢弾による攻撃が魔法少女たちを襲っていた。

ホーミングミサイルのような波状攻撃が魔法少女たちだけじゃなく市民や建物に放たれる。

街や人を守りながらの戦いが魔法少女たちを劣勢に立たせていく。


音声の中に聞こえる罵声。

魔法少女に対する非難の声。


「勝手なこと言って!」

「みんながんばってるのに!」

「お願い……負けないで!」


アメリア班長と清掃班の人たちが固唾を飲んで見守っている。


吹き飛ぶ車に破壊されるビル。

逃げ惑う人々。


ゆのを含めて5人だった魔法少女は30人を超えて悪魔と戦っている。

きっと作戦司令部と北海道支部、青森支部でいろんなやりとりがあって派遣されてるんだろう。

青森からやってきた魔法少女もいた。

だけど、みんながみんなゆのみたいに強くはない。

中には戦闘に特化していない魔法少女もいる。

傷ついても。

倒れても。

悲鳴をあげても。

それでもなお立ち上がる魔法少女たち。


みんなの想いは決まっている。

もう悲しい想いをしたくない。

させたくない。

だから戦う。

たとえ自分を犠牲にしても。

守りたい。

救いたい。

負けるわけにはいかない。

突き動かされる想いがきっと魔法少女たちの心に宿ってる。


「お願い……ゆのを……みんなを守って……」


神様に祈ったわけじゃない。

なぜ人は祈りを捧げるときに手を組むんだろう。


魔法少女が血を流して一人倒れる。

起き上がらない。

また一人倒れる。

さらに加勢に現れる魔法少女も傷ついていく。


だめ……

やめて……


合わせた手に力がこもる。

早鐘のように胸を打つ。

焦燥が止まらない。


『わたしは負けない!』


画面の中から聞こえるゆのの叫ぶ声。

全身傷だらけなのに瞳に宿る希望の光は消えていない。


『みんなの未来を守るんだから!

やああああ!』


出力を上げた魔法の剣を構えて飛ぶゆのが光子の矢弾を弾きながら突き進む。

ゆのだけじゃない。


『たまだって負けにゃいにゃ!

みんにゃでゴロゴロ丸まって寝るんにゃ〜!』


他の魔法少女たちも口々に希望の言葉を吐き出していく。

全滅するかもしれないくらいに劣勢だった魔法少女たちが少しずつだけど反撃していく。


そんな魔法少女たちを見て応援する声が聞こえる。

小さな女の子にお母さん。

スーツを着た男性。

タクシーの運転手。

他にもたくさん。

逃げながら。

身を守りながら。

自分だって危ないのに声をあげてくれている。

罵声だけじゃない。

魔法少女を愛してくれる人たちがちゃんといる。


希望があふれる。

心が熱くなる。

涙がこぼれる。


「ゆの、がんばって」


祈る。

心から祈る。

勝って。

生きて。

笑って。

未来へ。


「しのちゃん? あなた……髪が光ってる」


眼帯をしている方の後れ毛がひと束、白く光り輝いていたらしい。


わたしはアメリアさんの声にも気がつかないで、自分の変化にも気がつかないで。

ただただ。

画面を見つめて祈り続けていた。


魔法の剣マジカルソード〜!』


白く光り輝くキラキラとしたエフェクトを振り撒くゆの。

魔法の盾マジカルシールドで光子の矢弾をすべて弾きながら悪魔、潜水艦を艦首から輪切りにしていく。


他の魔法少女たちも追随して悪魔を攻撃していく。


誰もが感嘆の声を上げる。

現場の人も。

作戦司令部も。

ここにいるみんなも。

画面に釘付けになっている人も。


魔法少女たちの勝利はもうすぐ。

平和な明日を。

希望の未来を。

信じて疑わない。


刹那

黒十字架が刺さった核弾道ミサイルが発射されていた。

残されていたすべて23発。


煙と炎が巻き上がる。

ぐんぐん上昇する核弾道ミサイル。


『追撃!

飛べるものは攻撃力の高いものをサポート!

なんとしても食い止めろ!』


ゆずりは作戦司令の美声がスピーカーから響く。

必死になるあまりうっかり放送スイッチを押したのかもしれない。


飛行能力を有する魔法少女たちが飛べない魔法少女を抱えて追いかける。


魔法力推進装置マジカルスラスターを全開にしたゆのが核弾道ミサイル1発を撃墜。

にゃんこ少女や他の魔法少女も数発を撃墜する。

落ちる残骸は他の魔法少女が処理をしようとそれぞれ行動を開始している。


数が多すぎる。

そのほとんどが垂直に上昇する。

追いすがるゆのたちを嘲笑うように加速する。

そして……

核弾道ミサイルが弧を描いて破滅の花が咲くように放射状に散開。

魔法少女たちは散り散りに追いかけていく。

そのうちの1発が急降下していく。

2発目、3発目と続く核弾道ミサイル。

函館の街を目指して。


『みんな! 街を守るよ!』


ゆのは軌道を推測したのか、追いかけるのをやめて先回りして核弾道ミサイル1発を撃墜。

撃墜に喜ぶみんなの声。


だけど、撃墜しきれないたくさんの核弾道ミサイルが函館駅に向かって突き進む。


『やらせるもんか!

誰も! 一人も!

悲しい思いなんてさせない!』


撃墜が間に合わないと思ったんだろう。

函館駅直上に飛行するゆのが白く光り輝いている。

わたしの髪の一筋も光り輝いたままだったらしい。


魔法力マジカルパワー最大!

魔法の盾マジカルシールド展開!』


魔法力で構築される光の障壁が、ゆのの足元から放射状に広がって函館の街全体を覆いつくす。


「すごい……」


アメリアさんの称賛の声。


函館駅とゆの目掛けて迫る核弾道ミサイル1発を撃墜。

2発目も撃墜。

他の魔法少女たちはわたしたち同様に見守るしかなかった。

3発目も撃墜。

4発目がゆのの攻撃をすり抜けて魔法の盾マジカルシールドに着弾すると大爆発を起こしていた。

背中に核の爆炎を浴びて吹き飛ばされるゆの。


「だめーーー!」


わたしの黒い髪がすべて、一本残らず白く白く光り輝き、全身が淡く光を放っていた。

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