終章 4

 そうして新たな旅立ちの日。

 沿道にはたくさんの人が押し寄せていた。サスとシリムが発つというのが知らぬ間に酒場街で広まり、見送りに駆けつけたらしい。

「本当にありがとう!」「寂しくなるな」「ふたり仲良くやれよ!」「また来た時はうちをよろしく!」「ばいばい!」

 その中にレグダンの姿もあった。どうやら彼が話を流したらしい。

「俺はここに残る。またどっかで会ったら飲もうや」

 サスは「うん、元気で」とうなずき、彼に別れを告げた。

 そのまま歓声に見送られ、ローズミルの街を後にする。

 しかし、シリムが隣にいないことに気がついた。足を止めて振り向くと、見送りの方を向いてじっと立ち尽くしている。

「シリム」

 声をかけると彼女ははっと振り向いた。その目には涙が浮いていて、ほろほろと空気の中、蒸発して消えていく。

「ご、ごめんね、ちょっと、寂しくなっちゃって」

 走り寄りながら、照れたように笑う。きらきら煌めき散る涙の瞬きを見て、サスはあの日のことを思い出した。

「会ったばかりの頃もそうやって泣いてたね……洞穴の外に出られた時」

「あ……そうだったね。光がすごく嬉しくて。でも今日は、寂しさもあるけど、あの日よりもっともっと嬉しいよ。だって、サスと一緒にいるって願いがこうして叶ってるんだもん!」

 シリムはそう言ってサスの腕にすがりつく。わっ、と見送りの声が大きくなった。気恥ずかしい。でも、その感触に安息を覚えているのは確かだ。

 だから、素直に伝える。

「僕も同じ気持ちだよ。……改めて、これからもよろしく、シリム」

「わたしこそ! サス!」

 シリムが幸せそうに笑う。涙の輝きで彩られたその笑顔はなによりも愛おしく思えた。

「そこのふたりーっ! 永遠にイチャイチャしたいなら置いてってあげますけど!」

 待機している魔動車の中からレオナが大声で怒ってくる。

「あ、ごめんごめん!」「待ってー!」

 ふたりは慌てて、新たな旅路に向けて走っていくのだった。

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壊れた世界で超重少女は何想う 城井映 @WeisseFly

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