第二章 追いつ追われつ、引かれつ引きつ 5
そういうなし崩し的な同意を経て、サスはどうしてか、ガルと同室することになっていた。せめてもの抵抗で寝床は分離したものの、寝台のない部屋の上、ガルは独力で這いずるくらいはできるようになっていて、そういう怪異のように添い寝にやってくる。
「……君はどうしてそんなに僕のことを求めるの。僕が君のことを助けたから?」
サスは目の前に横たわった、身も心も重たい少女に訊ねる。ガルはくすぐったそうに頬を緩めた。
「うん、きっとそれもある。腕が取れちゃうかも知れないのに、頑張ってすっごく重いわたしを運んでくれた。連れ出してくれた。かっこよくて優しくて素敵な人だって思った。でも、やっぱり、それ以上にサスがいると落ち着くんだ」
「落ち着く、か。そんなこと誰にも言われたことないけど」
「……あのね、わたし、サスの姿が見えないと、わけもわからないくらい怖くなって、不安になって、心が押し潰されそうになる。本当に、どこまでもちっちゃくちっちゃくなって、砂粒みたいになっちゃうんじゃないかってくらい……でも、サスの姿が見えると、ふって、今までの怖さとか震えが嘘みたいに消えちゃう。光がぱっと差し込んだみたいになる。だから、わたしはずっとサスと一緒にいたいの」
頑張って気持ちを伝えようとするガルの言葉を聞くうちに、その強烈な依存心は彼女自身の失われた過去となにか関係があるのではないかと思った。ちょうどその時、サス自身が姉を奪われた日の夢を見ていたから、そう感じたのかも知れない。
レオナたちの研究は、その秘密をいつか解き明かしてくれるのだろうか。
その時が来たらガルは、自らの重さを克服できるのだろうか。
身も心も、自分だけの力で立つことができるのだろうか。
「でも、いつかはひとりで立てるようにならなくちゃ」
サスは突き放すような口調にならないよう、できる限り柔らかく言う。ガルはその紫の瞳を揺らがすと、深い心の奥を浚うように答えた。
「……うん。わかってる。でも、今は……ここにいて」
その願いをサスはどうしても拒めない。その姿が──どうしても、サス自身と重なりすぎてしまう。置いていかないでくれ。それは今でも、サスが兄や姉に対して抱いている感情に似ている。
でも、それでいいのだろうか。このままでは共に絡み合い、動けないまま、暗闇に沈んでいくばかりなんじゃないか。そんな葛藤がサスの胸の中にずっと渦巻いている。
情を入れすぎるのは良くない。サスは大きく息を吐くと、腰を上げながら言った。
「できることならそうしてあげたいけど、僕にはなすべきことがある」
「サス……どこにいくの」
「鍛錬だよ。追いつきたい人たちがいるんだ。そのために、僕はもっと強くならなくちゃいけない。戦って、認められなくちゃいけない。だから……」
「わ、わたしも連れてって」
苦しそうに身をよじり、腕で這い寄りながらガルが言う。
「心配しないで。ここは僕の部屋でもあるんだよ。戻ってこないなんてありえない」
「やだ、サス、サス……置いていかないで……」
風に吹かれれば飛んでいってしまいそうなガルの声を残して部屋を後にする。建物の外に出ると、星の核から放射され、空に拡散された淡い光がサスの目を射した。
郊外まで歩き、いつもの場所で自己暗示から始める。
「強く、強く、強く、強く、強く……」
星を持ち上げた、あの強さをもう一度……。
ガルの強い引力によって実現した高密度な偽シュワル因子──あれだけの力をいつでも発揮できるようになれば、また新たな領域へ進めるはずだった。サスはあの時の感触をたぐり寄せながら、ひとり、ゼルキドを滾々と詰めていく。
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