第一章 壊れた世界で超重少女は何想う 3

「さあ、行きましょう! サスさん!」

 翌朝、張り切った様子のレオナがサスを出迎えた。その傍らには支給された魔動車まどうしゃが駐まっている。貯蓄された魔力を燃料に走る自走車の一種だ。深い葉っぱ色のペイントが朝日に光っていた。

「なんていうか、君とは縁を感じるね」

「はい、どんな方が来るのかなってすごい緊張してたんですけど、サスさんだなんて、運命感じちゃいますね!」

 サスとレオナはそんな会話をしながら、それぞれ運転席と助手席に乗り込んだ。

 ローズミルはアズヴァの北東部に位置する辺境地帯にある街だった。その南側には手つかずのワームホールが多数存在するジュキナ徘徊地やハクヌスに敵対ゲリラの潜む区域が広がり、大陸屈指の未踏地帯となっている。

 そうした危険域と安全の確保された領域の境界を「前線」と呼び、ローズミルは前線拡大のための一大拠点として有名な街だった。そのために人とモノの出入りが多く、辺境の割に街としては栄えている。

 ジュキナ専門バスターを名乗るサスとしては当然、南部の調査に割り当てられると思っていたのだが、姉の計らいとやらでローズミル南西部の「高エネルギー反応地域」へと回されてしまった。相当前からハクヌスが領有し、安全すぎるがために長い期間捨て置かれていた場所らしい。

「そもそも高エネルギー反応地域ってなに?」

 草原に伸びる馬車道を走る車の中、ハンドルを握ったサスは問う。レオナはどこかでもらってきたのか、昨日のジュキナ肉をパンでサンドしたものをもぐもぐ咀嚼しつつ答えた。

「そのまんま、首都にあるクソ高い観測塔で、高いエネルギー量を観測した場所です」

「そのままだね。でも、大抵は『崩星』時に一瞬出来て潰れたワームホールの残骸だって聞いたことあるけど」

「んぐんぐ……そうですね。残骸って残りカスってことですから、ロクに調査もされないし──必死で重要性を訴えて予算が下りても、調査チームは必要最低限っていう」

 ジュキナサンドを食べ尽くし、ソースのついた指で自分とサスを交互に指さすレオナ。それにしてはピクニックに行くのかと思うくらい、ウキウキしているように見える。

「外れクジに思えるけど、やけに楽しそうなのはどうして?」

「さて、どうしてでしょう?」

「……何か、今向かってる場所にしかない兆候が見つかったとか」

「ピンポーン!」

 適当に言ったのに、何か当たったらしい。

「っていうのも、そこだけなんか時空の乱れがあるんですよ」

「時空の乱れ?」

「空間が凹んでるんです。柔らかい土に鉄球落とすと凹みますよね。あれの……三次元バージョン、立体空間バージョンみたいな感じです」

 空間が凹んでる? まったくイメージがつかない。反応に迷っていると、レオナは指についたソースをぺろぺろ舐めながら言った。

「まあ、行けばわかりますよ。きっと未知のものがアタシたちを待ってるはずです!」

 なんとも緊張感がない。変な娘だな、と思いながらサスは車を飛ばした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る