第一章 壊れた世界で超重少女は何想う 2

 サスはローズミルに帰還すると、調査団長のもとへと向かい、レオナ・カキハラの保護任務に関する子細を報告した。

「ん。到着初日からご苦労だったな」

 団長のヴァルド・コーストリアは机で書き仕事をしながら、サスを労った。彼はハクヌスを中心に構成された「人類存続連合」、いわゆる「存続連」という機関の役人だ。存続連は人類の絶対的な連帯を唱えているため、加盟国は攻撃のための軍隊を持たず、代わりに調査隊員という名目で戦力を保持している。彼はローズミル辺境地域の調査と防衛を担う調査団責任者として現地チームを統括していた。

 丁寧に手入れされた栗色の髪に、凜と澄ました顔のつくりは異性の人気の的らしいが、サスは彼からはどうも苦手な雰囲気を感じている。

「どうも。それで、明日以降の僕の任務について聞かせてもらっても?」

 サスは訊ねる。彼自身はフリーのバスターを決め込んでいたのに、それが今回突然、ローズミルなる街を拠点とする調査団への所属となったと知らされ、わけもわからずやってきたのだ。今日のレオナ保護任務も、発覚直後に手すきだからと割り当てられたくらいで、本来ならぽっかり空白の一日となっていた。

 当然の質問に、コーストリアは大儀そうに大きく息を吐くと、答えた。

「ここからそう遠くない場所に高エネルギー反応地域がある。そこの調査が君の仕事だ」

「高エネルギー反応の調査? それは学者の仕事では」

「もちろん。今日、君の救出したレオナ・カキハラに帯同してもらう」

 つまり、レオナの護衛ということだ。サスは眉を顰めた。

「僕はジュキナ専門のバスターだ。ワームホールの制圧ならともかく、一地方のエネルギースポット探査の護衛なんて、駒の使い方を間違っているのでは?」

「自分の立場をわきまえていることに好感は抱くが……あいにくと君の起用は君の姉上レメ・ルンターズによるリクエストでな」

 コーストリアはじろりと彼を見上げつつ、一枚の書状をサスの方へ放る。

 ふいに出た姉の名前に、サスの胸がぐっと詰まった。

「……姉さんが?」

「ああ。恐らくは無茶なジュキナ討伐を繰り返す弟を、ジュキナ徘徊地域から隔離するための『粋な計らい』だ」

 コーストリアの口調には明らかな皮肉が交じっていた。姉は現在、首都に置かれた存続連の司令部に勤めている。書状を見ると、確かに姉の名前でサスのローズミル派遣の辞令が記されていた。

「粋な計らいって……バスターにとっての実質的な閑職に追いやることが?」

「ジュキナ討伐は殉職者が後を絶たない。ひと月に二十体という驚異的なペースでジュキナを狩っていた君の安全を、前線を退いた姉上は心配したのだろう」

「……」

 サスは押し黙る。コーストリアは目をじんわり眇めつつ、続けた。

「使い捨ての破砕槌の費用だってバカにならないだろう。それに引き換え、この任務では学者の近くにいるだけで金が入る。ここは身内の厚意に甘えておくべきだ」

「……ご親切に」

 任務内容は不満だが、姉の手回しなら受け入れないわけにいかなかった。

 ──その後、十分あまりのブリーフィングがなされた。ただレオナを安全に送迎するだけの、なんてことのない内容だった。

 立ち去ろうとするサスの背中にコーストリアは声をかけた。

「そのファミリーネーム……〈ルンターズ〉に恥じぬ働きを頼むよ、弟君」

 嫌味がすぎる、とサスは思った。

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