第26話 死神の大太刀 弐什陸
三班に分かれて行動することとなった。そこは
作戦が始まってからは班長の判断で班全員が動く。
作戦としては至って単純だ。
作戦の初期段階での
知らせがあるまで好きに剣を振るって良いようだ。
「この程度の奴等なら、俺一人でもなんとかなるだろうが、彼奴等が犬神家に仕官するなら手柄の一つでも立てとかなきゃな。親玉が人外だと仮定して臨んだ方がいいだろうな。邪気か、面倒くくせぇな。」
言葉とは裏腹に
太陽の位置を確認すると、もうそろそろ天辺に差し掛かる。憎たらしいほどの光量を放っている。
半刻。それが作戦開始地点へ移動する為に与えた時間だ。皆が刻んだ時を測る物を持ってはいなかった。故に、作戦開始、要は
不意に
「さて。少し早いが、そろそろ出向くとしましょうかね。」
袴に着いた土を払い落とす。
周囲に盗賊の姿はない。日中なので油断しているのだろう。よもや来るはずの無い死神が、白昼堂々目の前に現れるとは思っていないだろう。俺の姿を見たら奴等はどんな顔をするのだろう、腰を抜かす者はいるだろうか、そう考えるとニヤニヤが止まらない。
漆黒の大太刀を担いだ死神の姿は堂々としたもの。大股歩きで木々の間を抜けて行く。門の前に立った。門であってもそれは過去の話。扉が壊れ落ちたその様は鳥居のよう。鳥居が神の通り道であるならその先は神聖な場所であるべきであるが・・・この先にある場所が東山における墓地ならば、それを神聖な場所と言えなくもないのだろう。
盗賊の姿は無い。見張りすらも。
「知らん者が来たのに挨拶も無しか。この対応は関心しないな。ちょっとは警戒してくれないと、俺が自信無くすぞ。そんなに弱そうに見えるだろうか・・・。」
項垂れて凄く浅い溜め息をついた。再び顔を上げた彼の表現は微笑だった。そして、こらえきれずに笑った。
「ふふ・・・まぁ、これもまた一興か。止める者がいないのなら遠慮なく進むだけさ。さてさて、ここより先に居るのは人か。はたまた鬼か。」
まるで語り部のような口調で独り言ちる。
門より先の道は踏み均されていた。非常に歩きやすい。左右に柵が設けられ、ここ以外の道は通るべからず、そう言われているようだ。
「やけに用心深いな。道を反れたら畜生道にでも落ちるってのかよ。」
ぶつぶつと文句が止まらない
待ち伏せや罠の可能性も頭にはあったが、両脇に柵があってはその効果も薄い。よもや地中から飛び出すことなんぞあるまい、可能性として低いものは頭の中から切り捨てた。
前方に男達が見えた。数人居る。一人が気付くと指をさして他の者に警戒を促した。露骨な警戒態勢。いや、遠くから喧嘩を売っているようにも見える。
最初に気付いた者が前に出た。そして、
「おいおい何だテメェは。ここから先は通行止めだ。こっから先は俺等の縄張りだ。迷い込んだなら持ってる物置いてとっとと失せな。配下に加わりたいって事ならまずは俺が面接してやる。お、おい。聞いているのか?」
男の声が耳に入っていないかのように
異質な気配を感じたのかもしれない。
戦術が確立されたこの時代に単騎駆けは時代錯誤である。戦術とは相手を絡め取り、倒すものであって味方の被害を抑えつつ相手を制圧するものである。
ただ、その中で個人の力量に圧倒的な差があった場合はどうだろうか。
歩みを止めない
おそらく指揮官不在の敗残兵。一つの部隊がそのまま盗賊として活動しているのかもしれない。
盗賊達の対応を見てほくそ笑む
男達から再三の警告があった。しかし、
盗賊達の得物と漆黒の大太刀はほぼ同じ間合いだった。両者が同時に攻撃を繰り出す。槍の刺突と大太刀の斬撃。軌道は直線と歪曲。最短で届くのは刺突の方だ。
両者の攻撃が交錯した。大きな金属音。
槍の穂先が跳ね上がった。力強い斬撃が槍をかち上げたのだ。歪曲して見えた漆黒の刀身が止まった。だが、目視できたのも一瞬。
仲間の視線が集まる。
すると男の体がズレた。まるで風の刃が通り過ぎたようだった。
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