第24話 死神の大太刀 弐什肆
「アイツ、また何処かに行っちまったのかよ。真面目かよ、まったく。たまにはゆっくりしてろっての。」
「我は自分の責務を果たしているだけだ。文句を言われる筋合いは無い。」
振り返ると、洞窟の入り口付近に犬神の姿があった。
「なんでお前はいつも居ないんだ。こっちは急ぎで聞きたいことがあるってのに・・・いったい何処に行っていたんだよ。」
「我とて神の端くれ。土地神である以上はこの山の見回りは必須ではないか。もっとも、責務よりも自身の感情の方を優先している奴も居るがな。」
そう言いながら犬神は洞窟の奥へ進んだ。そして、伏せて楽な態勢をとる。
「お前が言う感情優先の奴は神なんだろう?」
「そうだ。」
「そんなんが土地神だと、その土地に住んでいる者達がたいへんだろうな。そもそも、なんでそんな奴が土地神になっているんだ?」
「それは分からん。我が選定したのではないからな。」
犬神が即答する。その後、この話には興味がありませんと言わんばかりの大きな欠伸をした。
大きな口を閉じた犬神が言葉を続ける。
「しかし、奴の土地に住んでいる者達が大変かと言われればどうか分からん。少なくとも財を成す者は私が管轄するこの地よりも多いと聞く。だからと言っていい事ばかりではない。反面では貧富の差がはっきりしているようだ。幸運を手にする機会はそこら辺に転がっている国だが、転落も早い。」
「それはもしかして・・・。」
「あぁ、沙流川の地。土地神は猿神だ。」
「あの国は多くのことに紋章学が絡んでくることは知っている。今回の転移紋章陣にしても、こちらに進軍を悟られない手段としては非常に有効だ。
「その辺のことを言われても何も言えん。我は猿ではないのだから。」
犬神が言った。続く言葉で違う指摘を
「先に声をかける前、我をアイツ呼ばわりは関心できない。現在もお前呼ばわり。これでも我は土地神なのだ。貴様が破壊神の使徒とは言え同格ではないのだ。少しは敬う心ってやつを考えても良いのではないか?。精神修行も貴様を強くするだろう。」
「獣のくせに細かいことを気にする奴だな。でもまぁ、確かにお前は神だ。アイツ呼ばわりしたのは悪いと思っている。だからと言って、俺に精神修行の重要性を解いてきたのは父上だけだ。それももう何十年も前の話。」
犬神が鼻を鳴らしてそっぽを向く。
「我が言っているのは礼儀の話だ。そもそも義理や任侠と呼ばれる精神を持つ者の多くは、窮地で実力以上の力を発揮するからな。貴様もここから更に強さを求めるのなら、その辺を求めて礼を正してみてはどうだろうか。個体として格が上がるぞ。」
「御講説感謝する。前向きに検討するよ。」
その言葉とは裏腹に、
「まぁ、強要はせん。どう判断するかは貴様の自由だ。」
少しの静寂。
「何を黙っている。何か聞きたいことがあってここに来たのではないのか?我は読心術を体得してはいないからな。このままでは貴様の目的は果たせんぞ。」
この言葉に反応した
確かに犬神の言う通りだ。今考えていた事を振り払うように首を左右に振った。そして、犬神に告げる。
「そうだった。獣の分際でよく気が付くじゃないか。」
「先も言ったであろう?これでも神の端くれだと。貴様の考えは読めずとも、どうしてここへ来たのかくらいは察するくらいはできる。それに、我は日課を終えて一眠りしたいのだ。これではおちおち眠る訳にもいかんだろうが。」
「寝込みを襲うなんてしないって。安心して眠ってくれ。」
「破壊神の使徒が居ては悪夢で魘されそうだ。我としては貴様が早々に立ち去る事を希望したいのだが。」
「悪夢ね・・・。」
ここ数年、
「・・・そもそも、お前様は夢を見るのか?」
「貴様、馬鹿にしているのか?我とて夢くらい見る。貴様ほど自分の運命に冷めた目を向けていないのでな。見れば分かるぞ、貴様は生きる目的を失っている者の目をしている。これでは盗賊の方が・・・いや、山の中で生を謳歌している動物の方がまともな目をしているぞ。」
犬神の言葉には何も返答がない。根っこの部分を見られたようで、
「再度の御講説感謝する。だがな、今回ここに来たのは盗賊共の居場所に関してだ。何か知らないだろうか。」
犬神がジッと
「沙流川の兵の件はもう片付いたのか?先にそっちを・・・。」
「終わっている。彼等の少数が俺と共に盗賊の殲滅を行う予定だ。」
「そうか、貴様は長い時間戦うと・・・おっと、今はそれは関係ないか。良いだろう、我が知っている事を貴様に教えてやろう。」
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