第18話 死神の大太刀 什捌
悲鳴を聞きつけた
状況を確認しようにも、今は槍を構えた兵の背中しか見えない。
「何が起こっている。」
声を張り上げた。事態にあたっていた兵に状況の報告を求める。声に気付いた侍大将が簡潔に状況を報告した。
「魔獣が出現。被害多数。」
報告を受けた
魔獣とは邪気が野生動物に宿った者。普通の動物より強暴性が増し、生存以外で命を奪う。そこには目的も何もない。
沙流川の地でも度々魔獣の出現は確認されている。その対応に特化した部隊を抱えている程だ。
今率いている部隊は魔獣との戦闘を想定した部隊ではない。故に、
「どうして不幸って奴はこうも連鎖するんだ、まったく。それで・・・状況はどうなっている。討伐はできずとも、押し返すだけでも構わん。」
常に冷静な
「全力で対処しておりますが、現有戦力では被害を抑えるのが精一杯。些か分が悪いかと。個人的な意見としてはこの場の放棄、撤退を強く進言します。」
侍大将の進言を受け、
撤退・・・撤退するか、いったい何処へ。土地勘がない山の中で兵を何処へ導けば助かる目星が立つとんだ。それでも、ここでいたずらに兵を失う訳にはいかない。だが、ここを放棄したとして、転移紋章陣の復旧はどうする。まずはそれが成せなければ、逃げるも戦うもないではないか。
兵達が槍衾を組んで対処にあたっている。この場所からでは魔獣の姿を見ることはできない。長槍で対処できていると考えれば、飛行能力を有している訳ではなさそうだ。
指揮官としての決断を迫られている。深く考えている時間は無い。
「撤退するとして、兵達はどれほど持ちそうか?」
侍大将に問う。
「持って半刻。兵の疲労を考慮すると、もっと短いかもしれません。ですが、その際は一命にかえても時間を稼ぎます。」
「すまん。」
それが侍大将に届いたかどうかは分からない。それでも時間を無駄に消費する訳にもいかない。
すぐに
だが事態が急変する。
「な、なんだお前は。」
見張りの叫びが耳に届く。その直後に聞こえる悲鳴。
全身で感じる死が迫る感覚。
野営地へ駆けながら
悲鳴は断続的に聞こえる一方、武器が打ち合う音は聞こえない。先に戦った
進む先に立派な甲冑を身に着けた男が一人。彼には見覚えがある。先の戦闘で指揮をしていた男で間違いない。雰囲気が違う数名が周辺を固めている。それが部隊の隊長が彼である事の証明だろう。
「取った。」
声が聞こえた。
後ろへ飛び退く
「やるじゃないか。三人掛かりとは言え、俺の一撃が受け止められたのは何時以来だったか。おまけに反撃までしてくるとは。見事な連係だ、よく鍛錬されている。」
大太刀を受けた者、刺突を避けられた者、皆が一様に苦い表情をしている。力量差が明確にある者が相手でも、今の連携が必殺の連係。成果を上げるのには十分だったのだろう。
「次は簡単に連係がとれると思うな。俺がそれをさせない。」
「ちょ、ちょっと待て。お願いしたい事がある。」
不意に聞こえた言葉。それは場に相応しくない懇願の声だった。声の主が
この部隊の隊長だった。
「ここは見逃してくれまいか。いや、部下の命を助けてはくれないだろうか。」
「貴様、この状況で自分が何を言って・・・。」
「
その声と共に数人の男達が宙に跳ね上げられた。そして、
「魔獣・・・。」
その風貌は頭に一本の角がある熊。角に目が行きがちではあるが、前足が不自然に発達している。あれで殴られたなら、屈強な兵でもただでは済まない。
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