第3話 茜のアパート
剣先の住むアパートは大学から徒歩でも20分で着くくらいの山手の閑静な住宅街にあった。スーパーや商店街からはちょっと離れているが結構大きな家が多く、このあたりはいわゆる高級住宅街と言われるところだ。到着してみて分かったのだが、そこは男子禁制の女子学生専門のアパートだった。
「おい、ここ男子禁制だよな。すまん、知らなかった。俺、帰るわ」
「待て!」
剣先の手ががしっと俺の腕を掴んだ。
「昼飯あんだけ食っといてそれはないだろ。大丈夫だ。大家に見つからなきゃ問題ない。男連れ込んでる奴、結構いるし」
そうなのか? 女子学生専門のアパートってそんな緩々でいいのか?
大家さんの部屋は1階のエントランスの真ん前にあったが別にずっと監視してるわけではないようで俺たちは拍子抜けするほど簡単に剣先の部屋まで辿り着いた。途中で居住者とおぼしき女子に会ったが剣先は「よっ!」っと片手を上げて会釈していた。その女子はすごくびっくりした顔をして俺たちの後ろ姿をずっと見送っていた。何故かは分からない。こいつ、ここでも色々とロックオンされているんじゃないのか? それは、まあいい。話を先に進めよう。
「おじゃまします」
「スリッパとかはないんだ。そのまま上がってくれ」
「へえ……」
剣先の部屋は、何と言いうか意外なことにきれいだった。突然訪ねてくることになったのだからことさらに掃除をしたわけではなかろう。普段からきちんと片付けているらしい。殺風景な男のような部屋を想像していたのだが、派手さはないがそこはやっぱり女の子の部屋だった。俺が今いるとことろはダイニングだろう。広さは六畳といったところか。廊下側にキッチンが見える。結構ちゃんとしたキッチンだ。これくらいちゃんとしたキッチンがあればたいがいの料理はできそうだ。
「そのアコーディオンカーテンで仕切られた向こう側も部屋なのか?」
「うん、八畳のリビングだけど俺の寝室にしてる」
なるほどLDKということか。学生にはなんとも贅沢な間取りだ。
「風呂やトイレも付いてるのか?」
「うん、玄関入って左側にある。洗濯機、洗面所もそっちにあるよ」
俺のアパートなんて六畳一間でトイレ、洗濯場は共同、物干しも屋上に共同の物干し場がある。風呂はないから近所の銭湯に行く。
「洗濯物はどこに干すんだ?」
「南側にベランダがある」
それがどうしたと言わんばかりに無垢な表情で俺を見る剣先。
「く……」
お前には貧乏の悲しさなんてわかんないよな。心が卑屈に沈んでいく。いつしか俯いて自分の足先を見つめていた。
「そんなことよりレポート、手伝ってくれよ」
ああ、そうだった。俺がここへ来たのはこのパソコン音痴にその偉大さを教えてやるためだった。部屋の隅の机の上にノートパソコンが置いてある。これはLenova ThinkingPadじゃないか! これ、薄くて軽くて高性能で。でも高くて俺には手が出なかったやつ。そのとき俺はノートは諦め、代りに性能を重視したデスクトップパソコンを購入した。持ち運びはできないが、そのスペックの高さには満足している。
「パソコンを起動しろ」
「ラジャー!」
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