第47話

「嘘! どうやってここまで辿り着けたの?」


 すでに瞳の色をもとにもどしていたサンドラは、なぜ彼らが辿り着けたのか理解できない様子だ。


「説明している暇はないし、必要を感じません」


 ユリウスはサンドラを無視して、オデットに近付いてくる。

 その手には、見覚えのある短剣が握られていて、オデットは、はっとした。


 轟々と音が響き、竜巻のような風が地下深くからわきおこる。真っ黒な何かが、扉の隙間から覗く。


「オデット。遅くなりました、申し訳ありません。離れないでください。逃げますよ」


 ユリウスは迷いなく歩み寄り、オデットを抱えた。


「待ちなさいよ!」


 それを阻止しようとしたサンドラが片手を上げる。魔術を使うのだと察し身構えるが、何の衝撃も襲ってこない。

 思わず閉じてしまった瞳をゆっくり開くと、驚愕の表情を浮かべるサンドラがいた。


「力が……嘘! 力が使えない。どうしてなの」


 叫んだかと思うと、彼女の身体が急に遠ざかっていく。


「サンドラ!!」


 手を伸ばす暇もなく、サンドラは消えた。扉の向こう側に、吸い込まれてしまったのだ。

 サンドラのものなのか、別の何かなのか判断の付かない、つんざくような悲鳴が聞こえてくる。また地面は大きく揺れ、一気に黒い何かがあふれ出してきた。


 真っ黒な物体は、やがて大きな手の形になり、聖堂を破壊しながらオデットを捕まえようと迫ってくる。


「わたくしを置いていけ。このままでは神の怒りはおさまらない」

「何を言っているのですか? そんなことできませんよ。それにあれは飢えた魔物だ、神と呼ぶにはあまりに邪悪すぎる」


 ユリウスは走り出すが、人ならざる者相手に、簡単に逃れられるわけもない。

 オデットは思わず前をいくマクシミリアンに叫ぶ。


「アニトア王! この男はそなたの騎士だろう。しっかりと命じろ。守るべき相手が誰なのか」

「残念だったな。ユリウスはもう騎士を辞めたから、俺の命令はきかないそうだ」

「ふざけるな。こんな時に、何をいっているんだ」


 追いつかれてしまう。このままでは全員がサンドラのように飲み込まれてしまうだろう。黒い手はオデットの目の前に迫り、もうだめだと思った時、身体がふわりと浮いた。


「ユリウス、何を?」

「マクシミリアン、オデットをお願いします」

 

 ユリウスが、オデットをマクシミリアンに向かって放り投げたのだ。そして、銀の騎士はすぐに黒い手に飲み込まれていった。


「ユリウス!」

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