第14話

「わたくしを閉じ込めておくつもりか?」


 反対側にある、部屋の出入り口を確認してみるが、やはり開かない。


「何が妻だ……」


 これではただの囚人だ。

 やり場のない憤りと不安をぶつけるように、どんと一度大きく扉を叩いた。


 マクシミリアンはオデットから皇女の身分を取り上げたが、皇女でない自分などこれまで経験したことがないのだ。

 目覚め、ベルを鳴らせば召使いが飛んできて全ての世話をしてくれる。

 何人もの召使いが、綺麗に髪を編み、オデットを飾り立ててくれる。


 周囲に人がいる時は、たまに一人になりたいと願ったこともあったが、本当に一人にされると、どうしていいのかわからない。


 閉ざされた扉の存在がもどかしく、もう一度力を込めて叩こうとした時、ガチャリと金属音がし、ドアノブが回った。


「奥様、お目覚めになられてますか?」


 姿を見せたのは、知らない女だった。白髪混じりのふくよかな女。


「食事を用意しましょうね、お腹が空いているでしょう」

「お前は誰だ?」

「私はこの家の使用人で、ハンナと申します」


 ハンナと名乗った女は、言葉こそ丁寧だがオデットにあまり友好的な態度ではなかった。気に入らないが、それでもこの女しかいないのだから仕方ない。


「着替えたい」

「はあ?」


 オデットの要求に対し、何を言い出すのかと言いたげな、気の抜けた返事をする。


「……着替えたい」

「この家の使用人は私と夫の二人だけです。奥様に専属の侍女はいません。そういう決まりだと伺っています。自分のことはなるべく自分でなさってください。できないことはお教えしますが……」


 頭を下げ教えを請うべきだと、そう言われた気がした。

 使用人を名乗ったくせに、なぜオデットの要求に黙って応じないのだろう。

 しかし、今この空間においての優劣をつけるなら、オデットはあきらかに劣勢だった。

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