悪の組織始めました。~悪役少女、怪人アプリで世界征服!~

ジャガドン

序章 最終決戦。

 人々は時を忘れ、明るい時も暗い時も、ただ生き長らえる事だけを考えて生活をしていた。

 時計の秒針は終焉しゅうえんの時へのカウントダウンの様に聞こえ始める。


 怪人達により世界の人口は三分の一にまで減少し、残った人間は家畜同然の暮らしをして生き延びるか、怪人達に見つからない様、ひっそりと山奥や地下で暮らすしかなかった。


 瓦礫の山と化した街、東京。

 ここでは幾度となくヒーロー達と怪人の戦闘が行われ、怪人達による大規模な破壊活動の末、人々の行き交う街並みはかすみの如く幻となっていた。


 そして、この日。

 怪人達との戦いに決着をつけるべく、ヒーロー達が集まった。


 瓦礫の山の上から、怪人達とヒーロー達を見下ろすのは、その怪人達の首領である美津姫みつひめうらら。

 世界を征服を成し遂げ、文明を崩壊させた張本人である。

 不敵な笑みを浮かべた彼女はヒーロー達の側にいる天才科学者興梠こおろぎ博士に語り掛ける。


 「茂助もすけ茂助もすけ、あなたはどうして茂助もすけなの?」


 うららがそう語り掛けると、興梠こおろぎ茂助もすけは片膝をつき、プロポーズでもするように、見上げた先に居るうららに向かって返事をする。


 「美津姫みつひめうらら、私は誓言する。 見渡すかぎりの瓦礫を白銀色しろがねいろに染めている、あの美しい月の光にかけて」


 うららはその言葉を聞き、初恋をする少女の様な幸せそうな笑みを浮かべた。

 そして、胸の上で手を結び、恥じらうような素振りをしながら、もう一度興梠こおろぎ|博士に話しかける。


 「我が友よ! うららはもう飽きちゃった! だから、ヒーロー達を殺して世界を終わらせる。 それでもあなたは希望の光を、その麗しき瞳に宿すの?」


 興梠こおろぎ茂助もすけは先程とは違い、立ち上がって返事をする。


 「希望の光は色褪いろあせない。 その輝きは瞬く間に大きくなり、君を包み込むだろう」


 二人のやり取りに痺れを切らしたヒーローの一人。

 レッドが怒りをあらわにして口を開く。


 「ふざけているのか博士! どうして敵の首領といつもロミオとジュリエットごっこにきょうじている! 俺は…… いや、俺達を含めた全人類があいつを許さない!」


 興梠こおろぎ博士は少しばつの悪そうな表情を見せるが、レッドの言葉にうららが反応する。

 うららは満面の笑みを浮かべてレッドに向けて言い放った。


 「全人類が! うららを許さない! アーハッハッハッハァ! 凄い凄い! みんなうららの事で頭いっぱいなんだぁ! おんもしろーい! ねえ、レッド! 毎日うららの事考えてるぅ? うららの事で頭いっぱい? ねえ、教えて教えてぇ!」


 レッドは返事はせず、拳を固く握りしめ、ただうららの方を見る。

 そして、今度はグリーンがうららに向かって言葉をぶつけた。


 「お前だけは…… お前だけは絶対に許せねえ! お前の血反吐で大地を染め上げ、その首を! 串刺しにして永久凍土にぶち込んで100万年かけて辱めてやる!」


 それを聞いたうららは体をくねらせ、もじもじしながら顔を紅潮こうちょうさせ、返事をする。


 「素敵言葉! ありがと! そんな情熱的にプロポーズされたらうららのお胸がキュンッてなっちゃう! でもごめんねぇ。 うららはみんなのうららだから、一人にだけ愛情を向けるなんて出来ないの。 ほんと、ごめんねぇ!」


 グリーンもレッドと同様に返事をせず、自らの武器を固く握り絞める。

 そして、ピンクとイエローは何も告げずに武器を構えた。


 最後に、ヒーロー側についた【人型怪人】の瑠璃目るりめはくがうららに伝える。


 「私はもう生きていたいとは思いません。 私が求めるのは、美津姫みつひめうらら…… あなたの死とそれに至るまでの叫びの声! 苦しんで…… くるしんで…… くるしんでくるしんで、苦しんで苦しんで苦しんで滅びなさい!」


 瑠璃目るりめはくが叫び声をあげると、ヒーロー達が動き出す!

 それぞれの武器を持ち、瓦礫の山を登っていった。


 その様子を眺めながら、うららはゆっくりと手を掲げ、ただ前に突き出した……。


 時間にしてほんの1秒。

 それだけで誰の目から見ても分かる決着が着く。


 遥か空の彼方から大気圏を突き破り、音もなく怪人はやぶさ男達がヒーロー達に向かって突撃する。

 怪人はやぶさ男達が地面に当たる寸前で切り返していくと、その周囲全てが塵と化し、遅れてやってきた音と衝撃の波が地面に激突し、連鎖的な爆発引き起こし、東京は大きなクレーターを残し、消滅した。


 クレーターの中心で美津姫みつひめうららは手を結び、しばらくの間たたずんで沈黙する。

 そして彼女は世界の鎮魂歌を唄い始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る