天下無双(予定)のダンス布団

笹椰かな

本文

 私の名前はタ・チバーナ。ブレイクダンスが踊れる布団だ。

 私が住む国であるイ・セカイでは、ダンスが流行っている。そのジャンルは様々だ。

 街の広場でタンスがブレイクダンスを披露したり、ちゃぶ台と椅子がフォークダンスをマイペースに楽しんだりしている。


 私はつい最近までダンスには興味がなかった。流行りものには乗っからない主義なのだ。

 だが、テックドックというSNSでドラム缶の爽やか水ドラムさんが華麗なブレイクダンスを公開しているのをたまたま観て、激しい興味を抱くに至ったのだ。


 私は動画を観たあと、すぐにブレイクダンスの指導を受けられる場所をネットで探した。『ヨー・コハマダンス教室』というダンス教室を見つけた私は週末になると必ずそこへ通った。

 ツーステップ、ブロンクスステップ、スピンダウン、チェアーハローバック、ジョーダン、ヘッドスピン、ウィンドミル、ナインティ、エアートラックス……。

 私はコハマ先生――ちなみに先生は脚立だ――の指導のもと、様々な技術を身につけていった。ひとつの技ができるようになる度、心が沸き立つような達成感があった。楽しい。楽しすぎる。そう思いながら、私はブレイクダンスに熱中していった。


 ある日、コハマ先生が真剣な顔をして言った。


「チバーナさん。あなた、ブレイクダンス天下無双破邪顕正大会に出てみない?」

「ブレイクダンス天上天下唯我独尊大会?」

「違うわ。ブレイクダンス天下無双破邪顕正大会」

「ブレイクダンスTENGA無限破顔一笑大会?」


 私が二回聞き返したところでコハマ先生は諦めたのか、「あとで大会のチラシをあげるから、大会名はそれで確認して」と前置きしてから大会についての説明を始めた。


「国内最大規模のブレイクダンスの大会よ。技の精度や表現力を競う大会なの。昨年はドラム缶の爽やか水ドラムって人が優勝したのよ」


 爽やか水ドラム……!! その名前を聞いた瞬間、私の体に衝撃が走った。

 憧れの爽やか水ドラムさんが出場し、優勝した大会!! それに私も出られる……!?


「で、でも私、今までどの大会にも出たことがない素人なのに」

「関係ないわ。プロアマ問わずの大会だもの。それに私、あなたのダンスは素晴らしいと思っているの。ぜひ出場して、あなたのダンスを他のダンサーや観客たちに見せてあげてほしい……私はそう思っているわ」


 コハマ先生の瞳は輝いている。それを見て、期待されているのだとわかった。

 爽やか水ドラムさんへの憧れ、そしてコハマ先生の期待が私の背中を強く押した。深く深呼吸をしてから口を開く。


「わ、私……出ます。ブレイクダンス天然乾物屋派遣紹介大会に」


おわり

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