メタバースの王者_トリの降臨

アーカーシャチャンネル

公式切り抜きより引用

【布団がダンスをする動画だと? 寝ぼけてポストをするのもいい加減にしろ】


【本当に布団が踊っているんですよ。厳密には布団をマントにして踊っているVTuberらしいのですが】


【コンプライアンス的にぐるぐる巻きとかは即炎上するだろうし、それを真似してけが人が出たら、ひとたまりもない】


【下手に炎上する動画を出せば、国が滅亡と言う話もある位だからな】


 そんなつぶやきが拡散しているのだが、このつぶやきは小説サイト上に掲載された小説の感想などをつぶやいているわけではない。


 布団が踊っているように見える動画は本当に投稿されているし、何なら……炎上する話題をすれば国が滅亡するのも本当だ。


 国と言っても、あくまでメタバース上の国ではあるのだが。



 今、メタバースの世界では世界を平和にするための活動が行われ、その一環として勇者が求められていた。


 異世界的な勇者ではなく、この場合の勇者はどちらかと言うと……だが。


 しかし、メタバースの住人はVTuberと同じ認識をされており、むしろ一連のつぶやきでVTuberと勘違いされたのは……そういう事なのだろう。


【どこの企業勢だ?】


【一種のコラボ的な枠ではないか?】


【配信者を勇者? ラノベか何かの企画では?】


 実際、この動画を見て反応しているこうした事例もある。


 こちらの反応をしているのは、ほとんどがVTuberを応援しているファンなどが多い。


 しかし、あの動画の人物に関しては名前も挙げていないし、知らないVTuberと言う認識が多数だったといえるだろうか?



 一方、現実の世界でも同じようなことがあった。勇者は求められていないが、安易なバズり動画などは炎上する。


 そんな中で、一人の男性VTuberはふと思う事があり、SNS上をネットサーフィンしていた。


(誰か、参考になりそうな人は……)


 炎上系とか暴露系配信者の真似をしても、それが自分にあわなければ即アウト、炎上しただけで即引退が待っている。


 だからと言って、見る人がいなければ配信をしていても意味はない。バズが欲しい……という率直な思いもあった。


 そのため、彼は様々な情報を集めている。そこから何か参考になればいいな、と。


「こ、これは……!?」


 そこで発見したひとつの動画、それは布団をマントにしてダンスをしている……と言う動画。


 布団がダンスを踊るのであれば、やろうと思えばCGを駆使してできるだろう。しかし、この場合は布団をマントに見立てたものである。


 毛布をマントに見立てるようなものは……経験があるかもしれない。それでも、布団となると難易度は高いだろう。


 ベッドはマントに出来ないが……。



 それ以外でもこの動画の人物は様々な予想斜め上なネタを提供してくれている。


 もちろん、コンプライアンスとか……その辺もちゃんと配慮した形なので、炎上することはない。


 これならば、と思った彼だったのだが、決定的に真似ができない部分があって挫折してしまう。


(これは、まさか……。そっちなのか?)


 彼が見ていた動画、よく見ると周囲の背景などが自分の見ているような空間とは異なっていた。


 そこの段階で気づくべきだった、と言うのもある。背景のビルなどは、全てが作りもの……。


 この動画の正体、実はメタバースの住人による動画であり、VTuberとは色々な意味でも異なる存在。


「まいったな。これでは、どう参考にするべきか見当もつかない」


 近年、メタバース上の住民もテレビに出演したり、様々な講演などに登壇することもあるだろう。


 だからこそ、彼は最初のうちに動画を見ても違和感を持たなかったのだ。


(そもそも、炎上行為で国が滅ぶなんて、本当なのか?)


 彼も例のタイムラインを発見し、目撃していたのである。


 そして、そこに添付されていた布団をマントにしてダンスをする、メタバース住人の動画を……。


 コメントも確認済みで、彼に関してはどうしても不思議にしか思えない。


 エイプリルフール動画の削除し忘れ、もしくは転載なのか……とも考えたが、投稿日時は4月1日ではなかった。


(そうか。そういう意味か……)


 この動画のように布団でダンス……というのは事実上不可能と悟り、彼は別の手段でバズを得ようとする。


 VTuberのアバターで布団をマントにしたようなダンスを踊る……一見すると不可能ではないように見えるかもしれない。


 それでも、微妙な箇所で何かを言われるのは目に見えている。例えば『〇〇のパクリだ』とか、そういった事例だ。


 参考にしたとしても……様々な懸念がすべてクリアできるとは思えない。それを踏まえての断念だった。



『まさか、このような事例が存在するとは正直思いませんでした』


 数日後、彼は今回のメタバース動画を踏まえ、そもそもメタバースの住人とVTuberは別物だったのではないか、と考え、配信を行う事にする。


 もちろん、この動画を投稿した本人と相談をしたうえでの配信であり、いわゆる晒し配信などとも異なるだろう。


 彼としては炎上行為に正義は一切なく、悪意ある配信も……と言う形だった。


 しかし、ざっくりと言ってコラボと言うわけではない。単純にお互いの目的が一致しただけの……そういう形の対談にも近かった。


『トリの降臨さんは、様々な形でメタバースの住人とVTuberは異なる存在とも言っているのは印象的でしたね。自分も正直に言うと……』


 あの動画を投稿した人物、それはメタバースでは天下無双ともいわれているような活躍をしているトリの降臨と言う人物だった。


 外見こそは、それこそ男性VTuberとは変わらないような気配はする。一方で……はあるだろう。


 もしかしたら、これを原作とした実写ドラマなどでは配役の関係上で変わる可能性はゼロではないが。


『……ですが、我々としても学ばなくてはいけない箇所は多々あると思います。マスコミではメタバースもVTuberもさほど変わらないのでは、と言われている状況ですので』


 彼はその他にも色々と言及しているように聞こえたが、それが他の人物には別の切り取り方をされて炎上する……そういったことはあるだろう。


 しかし、晒し行為でバズるなんてことは犯罪であり、それを行ったら信用を失うのは火を見るよりも明らかだ。


『今回はトリの降臨さんをゲストに迎えて、あの動画の真意に関してお話を伺いました』


 こうして、1時間程の配信は終わった。


 反応に関しては色々とあるのだろうが……そういう事と考えよう。


 この切り抜きまとめを見ている人にとって、どういう印象を持ったのかは……人それぞれなので印象の強要なんてできないのだから。



 最終的にこの内容が何について語ろうと思っていたのか、見切り発車だったのでは……という読者もいるかもしれない。


 しかし、ニュース速報などでも感情的になったりするようなパターンもいくつかはあるだろうし、迷惑系配信者の事例などを踏まえれば、明らかだろう。


 ジャンルが細かくなっていくことは悪くないし、細分化されることで様々なジャンルが思わぬピックアップされる事も……今後はあるかもしれない。


 だが、忘れないでほしい。細かくジャンルが分けられたとしても、それを安易に叩いていい理由にはならないのだ。


 炎上行為は明確な犯罪と言う認識がされていないが、今後の情勢によっては……もあり得るだろう。



 それこそ炎上などのような手段を用いずに、全てが解決できれば、苦労はないと思う。


 そう、トリの降臨はメタバース内に国を作った際に考えていた。


 SNS炎上、それは過去に起こった戦争と変わらないのだ、と。


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