カタリーナ クロニクル

赤髪のLaëtitia

序.運命を探る旅へ

第0話_プロローグ

 ――本当にどうしてこうなっちゃったのかしら?


 その時ふと、『人は盲目である』という教えの一節が頭をよぎった。


 “盲目”とは何も、目が見えない状態だけを指すんじゃない。

 例え景色が見渡せても、そこに至る道が見えてないのも“盲目”だ。

 つまり、この世の理、“真理”が見えぬ人はみな、“盲目”なのだ。


 けれど私は知りたい。

 この知りたいという好奇心の灯は、なかなか消せるものでない。

 特に私はそうだ、その気持ちが強かったのは昔から。

 そしてその灯はきっと、“盲目”を導く光明になると私は信じている。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


 眼下を見下ろすと地面には白い石床だけが一面広がっている。

 私はゆっくり舞い降りた。


 これが“神様”のお導きってやつかしら。


 不思議な感覚――違和感がないわけじゃない。

 だって普通に考えたらこんな事、出来るわけないじゃない?

 けれど案外うまく出来るもんだ。私は自分に感心した。


 恐らくこれは、同じ様に舞っていた者たちをジッと見ていた事があったから。

 その経験が礎となり、直感的にこなせているに違いない。


 やっぱり、見るって大事よね。


 けれど、随分殺風景にしたもんね。

 これなら目的の遂行には、適しているだろうけど。

 ただ……私、“此処”から無事、帰れるのかしら? 疑問だわ。


 ま、今はまだ何もやる事がないし、きたる時が来るまで待つしかない。


 私は仰向けに寝転がった。


 石床はほんのりとひんやりしてる。

 空は雲一つない、よく晴れた青空……つくづく不思議な所だ、“此処”は。


 私は暫し目を閉じ考えた。


 人はしばしば自分の理解を超える物事に対し、それを自分の理解出来る範疇で納得する為に、“神”だとか“運命”の力を借りてきた。


 その全てが果たして“神”の仕業かどうかは知らないわ。それこそ“神のみぞ知る”だけど、“神”はそれだけの実力を備えてることは間違いない――“此処”の存在、それに今の私がまさにその証明だわ。


 けれど……“此処”に私が至る道までは、どうかしら?

 

 これは単なる

 案外、頼りになる奴なのよ、こいつは。

 正直それを頼りにこれまで後悔はしてないし、むしろ良い方へ導いてくれたと思ってる。ちゃんと舞う事も出来たしね、今でも良い相棒よ。


 その時だ。


 z――

 シュタッ


 そよ風に紛れて失せてしまいそうな、そんな微かな気配。

 しかし私は素早く身構え、柄を握っていた。


 来る――。


 zzZ…Zzzzh……ZgohgogogogoGoGoGoGOGOGOOOHHHH!!!!!!


 突如、不気味な唸りを上げて地面が震えだす。

 すると石床に闇の円が浮かび上がり、中から怪しげな人影が現れた。

 頭に角、背には翼、それに漆黒の体。

 何よりその身に纏う邪悪な気配が、その正体を如実に示している。


 ――悪魔。


 よし! さぁ仕事だ。

 見たところ、大したことは無さそうね。


 悪魔と目が合った、その瞬息、


 タンッ

 シュタッ


 白刃一閃。 

 いつもより体が軽い! 絶好調だわ!!


 私はゆっくり悪魔の方へ振り向いた。

 悪魔も私の方へと身をよじる。


 ゴロン

 ドタッ


 首から斬り離された頭部がこちらを向くことはもちろん適わず、

 私と悪魔が再び目を合わすことは無かった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


 私は背中の羽に触れてみた。

 真っ白でとても綺麗で、艶々してて滑らかで。

 しかも引っ張るとちゃんと痛い。


 ――こうなる運命だったのかしらね?


 あの悪魔は、もと来た闇の円の中へと沈んでいき、その円も段々小さく萎んで消えてしまった。

 どれ位の期間になるかは分からないけど、暫くこんな日々が続くのだ。


 私は羽根を広げながら、“此処”へ来るまでの経緯を思い返していた。


 “神様”にどうにか伝えようとお祈りをしたのが始まりだった。

 それは、冥界の者たちのある恐ろしい企てを知ってしまったから。


 でもそれこそが、悪魔たちの図った巧妙な罠。

 結果、私は天界へと導かれ、それが冥界と天界を繋ぐ手引きとなってしまった。

  

 冥界より訪れし、二人の襲撃者。

 天界を護りし天使たちの攻撃は、その二人には一切通じなかった。

 それは、二人がこの天界の者たちをとてもよく知っていたから――そう、二人は元天界の者だったのだから。

 

 その二人の進撃を喰い止めたのが、私。

 あの二人は本当に強かったし、況してや二対一だったわけで、よく倒せたと思う。

  

 幸い、その後悪魔の軍勢が天界に押し寄せてくることは無かった。

 ただ今後の対策には“神様”と言えど時間を要するらしい。


 そこで、私が“此処”の見張りを任されたのよね、“神様”から適任だって言われて。

 “此処”は結界が破られた場所なのだ。

 “神様”が完全修復するまで、悪魔の侵入を止めるのが私の役目。手伝いの者も選んで送ると約束してくれたわ。


 あら?

 何かおかしいわ!


 なんで“私の知らない事”まで、私の記憶の中にあるのかしら!

 

 私が“手引き”になっていた事なんて初めて知った!

 あの二人が“堕天使”だったなんて知らなかったわ!

 結界修復の話だって変な話だけど初耳よ!


 これは……一体、どういう事なのかしら?



(続く)



































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