相模くんはオオカミ属性
あお
2年1学期
本編
第1話 喰うか喰われるか①
「ねえ金森さん、俺たち付き合おっか」
斜陽の差し込む保健室。ふたりきり並んで腰かけたソファーの上で、しっとりと手が重ねられる。
砂糖菓子みたいに甘ったるい声で囁いた男は、絵みたい──少女漫画の一コマから抜き出したみたいに美しかった。
ミルクティー色の甘やかで柔らかそうな髪、時間の感覚を忘れさせる、透明な琥珀の瞳。硝子を透かす西陽が男性的な骨格をした輪郭をくっきりと浮かび上がらせる。
そういえば、触れた手も案外ごつごつしているかも。意識した途端ぴくりと震えた手を、上からソファーに柔らかく縫い留められた。答えを避けることを許さないとでも言うみたいに。
──なんで私、『王子様』に告白されてるんだっけ?
❁.*・゚
自分をヒーローかヒロインに分類するなら、私は断然ヒーローだ。
正しくって、誰の手も借りず、ひとりで敵の前に立ちはだかって、絶対に倒れない。それが、私のなりたい私。
「新入生?」
呼びかけると、その子は今にも泣きそうな顔で私を見上げた。
「ふ、」あんまりに必死な顔だから、私は少し笑って「大丈夫。送ってくから着いてきて」
新年度で混雑した駅前はいつもより人通りが激しく、絶え間なく流れていくひとの流れに背の小さな彼女はたちまち飲み込まれてしまう。
「あ、わっ」
「こっち。掴んで」
伸ばした手を縋るように握り込まれる。私はぐいと引っ張って、その子を胸の中に抱きとめた。
「捕まえた」
ぽーっとした顔で見上げる彼女の手を取ってそのまま通学路を行く。
「この道はじめて?」
「い、いえ。見学で一度、お母さんと一緒に。だけどいざ来たら……」
「中学の友達と約束しなかったの」
「友達みんな自転車通学だから、わたしひとりで、その、緊張しちゃって」
そんなふうに言葉を交わしながら学校まで到着すると、昇降口の前でこちらに大きく手を振るふたり組の女の子が見えた。
「あっ、友達です……っ」
「ん。じゃあ行っといで」
私は彼女の背中を押して、二年生の下駄箱の方へと向かう。
「あのっありがとうございました!」
大袈裟に腰を折った彼女を取り囲んで、三人組は一年生の下駄箱へと消えていった。
「ねえ、今の人誰?」「道で迷ってたら助けてくれたの」「先輩かな? 超かっこよかったー」「どこのクラスなんだろ」「部活やってるかな?」
下駄箱越しに響いてくるそんな会話に、私は
「……恥ずい」
顔を覆った。
物心ついた頃には人を助けていた。なんてさすがに言い過ぎだけど、幼い頃から正しさには人一倍敏感だった気がする。困ったひとには手を差し伸べるし、間違ったことは見過ごせない。私のこれを、誰かが偽善と呼んだ。そうして違う誰かは、“かっこつけ癖”とも。
「深琴ちゃん!」
窓際の席に、私の大好きな彼女はいた。
「ひなっ」
「やったやった、おんなじクラスだよっ」
「もー、私は絶対一緒になるって信じてた!」
「深琴ちゃんてば、職員室で圧かけてたもんね」
手を取り合ってはしゃぐ赤髪の愛らしい彼女は、
「……平気なの?」
ふたりにしか聞こえないようそっと尋ねると、彼女は
「うん。深琴ちゃんがいるから」
と、花咲くような微笑を浮かべた。それだけで胸がいっぱいになって、私は力いっぱいひなを抱きしめようとした。だけど。
「きゃあっ」
突然、どこからか控えめながら黄色い歓声が上がった。
「
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