出来心
山猫拳
1
首の痛みで目を開けると、フローリングの床が
昨日のことを思い出す。彼女……酔い
首を押さえながら上体を起こしてガチガチの肩を動かす。昨日はハイボールから始まって、焼酎、日本酒、ウイスキー……。そんなに飲んだつもりはなかったのだが、
金子先輩がハマっているポールダンスショークラブの
机の上に突っ伏して気持ちよさそうに眠っているアンリと俺が残された。アンリは店に通っているときから、少し俺に気があるようなサービスをしてくれていた。昨日も
だが酔い潰れた彼女に何かする気は起きず、タクシーに押し込んで住所を
面倒なことになるのは
「ねぇ、あたしら昨日ってやっぱり……」
声の方を向くと、アンリがベッドの上で
「いや、俺は送り届けただけ。何もない」
アンリは髪をかきあげると、うっとりとしたようにこちらを見て立ち上がり、歩み寄って俺の腰に手を廻す。
「じゃあ、今から何かする?」
何もしない、帰る……と言いたい
いや、もっと根本的な理由があった。俺には
「……今、から?」
「あたし、お店に来てくれてたときから
アンリが身体をぴったりとくっつけて俺を見上げる。密かに部屋を出ようとしていた俺の決断は早くもぐらつき始めている。
「いや……でも、その、一回飲んだだけだし。お互いよく知らないし」
「え? あたしは彬くんのこと知ってるよ。昨日も言ったじゃん。ATARUのチャンネル。スプラッタ―トゥーンの全国大会で無双! ってやつに彬くんが出てた回。あれ、凄い格好よかった 」
ATARUチャンネルとは、登録者三百万人を越えるゲーム実況を中心にした人気動画だ。配信者の
そこで俺のことを見ていたから、店でも気になっていたというようなことを言っていた。アンリはさらに俺を抱きしめる腕に力を入れる。目算Gカップが
リビングの入口にある応答用の小さな画面にジャージ姿の男が映る。ブルーのカラーが入った肩までの髪。耳にはピアスがずらりと並んでいる。玄関ドアの前まで来ている様子だ。まさに俺の良心が救われた瞬間だった。
「えっ……どうしよ」
アンリが表情を
「来客だよね? 俺はこれで帰るから」
「だ、だめ! 表にいるのカレなの。彬くん、今出て行ったら殺されちゃうよ」
「は? いや、何もしてないし。話せば……」
分かってくれるだろうか? 俺が逆の立場なら、信じない自信がある。実際下心はあった。それに殺されるとは
勝手なものだが、この子も彼氏持ちだったという事実から裏切られたような感情が湧いてきて、急に憎らしくなった。玄関のドアがドンドンと叩かれる。
「さっきまで飲んでてさ。アンリ、起きてんだろ? 部屋入れてよ」
アンリは玄関に走り、ちょっと待ってとドア越しに声を掛けて俺の靴を持って戻って来た。
「ベッド。ベッドの端にこれ持って座って。上から布団かけるから、そこでカレが帰るまでじっとしてて」
「えっ、ちょ……」
靴を押し付けられると有無を言わさずベッドの方へ引っ張ていって、俺を
「うん、大丈夫。なるべく早く追い返すから、それまでじっとしてて」
暑く息苦しい布団の中で、どうして昨日の夜この部屋を出なかったんだろうと、そればかりが
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