第四話 高橋家

 世界? 選ばれた?


 今や世界中がゾンビであふれる世界。そんなものに選ばれるなんてごめんだ。

 だが同時に、高橋が何かを知っている事。そして、他のゾンビとは違う事も明白だ。

 会話って、通じなくてもできるもんだな。

 妙に感慨深く、「そういえば人間だった時の高橋も、マイペースで会話が宇宙人なみにぶっとんだ奴だった」などと思い返していたのだが。

 そんな感傷は、どこからかぞくぞくと集まってきたゾンビの群れに中断された。


 皆一様に殺意を込めた眼差し。

 じりじりと、たどたどしい足取りで距離を詰めてくるゾンビたちの手には、金属バットやシャベルが握られていた。


「殺られる——っ!」


 とっさにドリフトをかけ、粉塵を巻き起こす。

 ひるんだゾンビたちが、右往左往としている中、俺は山道へと轍を翻した。

 逃げ際に高橋ゾンビをちらりと見ると、悲しそうに落ちた目玉を揺らしていた。





 高橋とは、中学からの同窓生だ。

 病床の母を抱え、バイト三昧だった俺とは違い、高橋の家は名家だ。

 某有名理系大学へのチケットをコネで手に入れ、あっさり高校を卒業しやがった。


 あいつは悪友。貧乏学生には目の毒な「持っている側」の人間。

 だけど俺は、どうしても高橋を嫌いになれなかった。


 思い切りエンジンをふかす。

 だめだ、高橋の野郎の顔が頭から離れない。

 あんなに恵まれて、金もあって、幸せだったアイツのゾンビ面が!


「くそっ! くそおおおお! 何でだよ、くそおおお!」


 歴史によると、ここX地区は砂糖の街だ。

 日清戦争を勝利に収めた日本は、好景気の勢いのまま、日本各地に製糖工場を建てた。ここX地区にもどでかい製糖工場が建設され、古くから街のシンボルにもなっている。


 なんだか歴史の授業のようになってきたな。

 俺が知る高橋家の歴史もついでに添えておく。

 日清戦争を経て、続く日中戦争の折に重要だった、紡績業・製糸業とともに、より強い規制の敷かれた製糖産業の担い手。


 それが高橋家だ。

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