許嫁、現る⑨

「はい、次そこの二人~」

「兄貴、大丈夫っすか?」

「……おぅ」


 名簿を手に、『こっちへ来な』と顎で指示する担任の最上。

 仁の拳はわなわなと震え、鉄はそんな仁が今にもってしまいそうでハラハラする。


「兄貴、ここは姐さんのためにも我慢っす」

「……ってるよ」


 この私立高校に入学するにあたり、学校側と取引した。

 一、四方同席(生徒間で上座も下座もなく、同列ということ)

 二、ヤキ(お仕置き、暴行)無し

 三、行事も含め、単位を修得する


 スタートの時点で出遅れた分、これ以上ヘタこく(失敗する)わけにはいかない。


 **


 愛しの小春が怪我を負ったというだけで気が狂いそうなのに、その原因が俺にあるかもしれないということが許せなくて。

 半年前、事故の少し前から小春の様子がおかしかった。


『許婚の関係を解消したい』『少し距離を置きたい』などと、会えば耳を疑うようなことを言いだして。

 あの日も、話し合いのためにデートに誘った。

 彼女が俺の記憶を失うとも知らずに……。


 小春の中で、俺との関係を清算したくて記憶を失ったのか。

 新しい関係をスタートしたくて、失ったと嘘を吐いているのか。

 今の俺には、ただ彼女の出す答えを待つ以外に方法がない気がして。


 ただ原因が俺にあって、そのせいで小春が危険な目に遭うなら放ってはおけない。

 離れた方が安全なことは分かっている。

 けれど、どうしてもそれができない。


 もう俺の人生に、彼女のいない世界なんて考えられないんだから。

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