第15話

【ユリ視点】



 今日も、今日とて、ただいまの代わりに私のお腹がなった。


「お父さん。お腹が空いて死にそう~」


 リビングに入った私の発した声と共にお腹もなる。


「一応確認するけど、アイちゃんは待たなくていいんだよね?」


「うん。後でゴメンするから。すぐに食べさせて~」


「じゃぁ、先ずは和風からいってみようか」


 そう言って出てきたのは、シンプルな、たらこスパゲッティだった。


 刻みのりと、これまた細長く刻まれた青しそが乗っている。


 一見すると、ただのたらこスパゲッティだが!


 食べてみると違ってた!


 これ、普通のたらこだけじゃなくて明太子も使ってるんだ!


 私好みのちょい辛に仕上がった一皿目は、あっという間に完食。


 次のお皿を要求する頃を見計らって、キノコがたっぷり乗ったキノコスパゲッティが登場。


 こちらもアクセントに刻みのりが乗っているが、お味はいかに?


 食べる前から香っていた粗挽きされた黒コショウの香りが食欲をそそる。


 うむ!


 こちらはキノコのダシがよく出ていて、それをシンプルに少し濃い目の塩味でまとめている。


 これまた今の私のストライクゾーンど真ん中だ!


「知り合いから分けてもらった岩塩を使ってるんだけど、どうかな?」


 元引きこもりのくせに、なぜか主婦のネットワークで繋がっていて良く試食させられるのだが。


 今回は、大成功と言っておくべきだろう。


 私が、親指を立ててベリーグッドだと伝えると三皿目――ペペロンチーノが出てきた。


 まるで私が欲する物が分かってるみたいに大き目なソーセージが乗っていて。


 刻まれた赤い唐辛子とニンニクが良いアクセントになっている!


 そして、四皿目は、濃厚なカルボナーラだった。


 厚切りベーコンと黒コショウがとても良いお仕事をなさっておられる!


 どの皿も文句なし!


「お父さん! おかわり!」


「ちなみに、どの味からが良いとかあるかい?」


「さっきと同じ順番でお願いしぁっす!」


 そして、計。


 八皿をたいらげて一呼吸ついた。


 いやぁ~。


 やっぱり、家の母は偉大だ!


 こんなにも立派な主夫になれると見込んで結婚したとするなら――


 未来予知とかの魔法を習得しているかもしれない!





【アイ視点】



 主にセッターを担当する先輩の練習に付き合わされて……


 思っていた以上に帰りが遅くなってしまった。 


 正直なところ、バスケのキャプテンみたいに少しは柔軟な考えを持って欲しいものだ。


 このままいけば、ボクがリベロになることなく初戦敗退だろう。


 三年生には悪いが、いさぎよく散ってもらうしかなさそうだ。


 そんなうっぷんを晴らすかのように走って自宅へ向かい。


 お泊りの準備を整えてからユリの家へと向かう。


 ボクが住む家とは違って温かみのある家庭。


 正直なところ、羨ましいと思う。


 旦那さんが専業主夫をしていると言う点では少し珍しいかもしれないが。


 はっきり言って男女どちらが稼ぎ頭になるかなんてどうでもいい事だと思っている。


 実際に、ユリの家庭はボクの家と違って崩壊していないのだから。


 今までにも、何度か遊びに行った事があり。


 そのたびに、手作りのお菓子やら、美味しいご飯を食べさせてもらってきた。


 ボクが多少手間がかかっても自分の食事を手作りしているのは、間違いなくユリのお父さんの影響が強くあるからだ。


 そう言った意味ではユリのお父さんは恩人に近いのかもしれない。


 そして――


 ようやくたどり着いたユリの家のインターホンのボタンを押す。


 すると、待ってましたとばかりに玄関のドアが開いてユリが出てきた。


「も~! アイちゃん遅すぎだよ~! 夜ご飯、先に食べちゃったからね!」


「あははは。ゴメン、ゴメン。インターハイの予選に向けて練習が長引いちゃってさ」


 本音を言ったら、ただのグチになってしまうので封印して言葉を選んだつもりだ。


「う~~~~~~! 今日は、バレーの日だっけ?」


「そうだよ。一応ユリのために頑張ってるつもりなんだから。たまには見学に来てほしいくらいだよ」


「はぅ~。それを言われると、何も言い返せないです……」


「まぁ、そんな話は置いておいて。ボクもうお腹ペコペコなんだ。今日の献立を教えてもらえるかな?」


「あっ! そうだよねっ! 今日は、パスタカーニバルだよ!」


 はて?


 パスタカーニバルとはなんのことだろうと、お邪魔して見ると。


 なるほど、手の大きさ位のお皿に――それぞれ四種類のパスタが盛られていた。


 どれも美味しそうである。


 ユリのお父さんに、


「どうぞ、お召し上がりください。良かったらおかわりもありますから」


 と促され、ユリの隣に腰をおろすと。


「お父さん! 私も、おかわりしたい!」


 予想外の言葉が右側に座るユリから発せられていた。


 確かに、先ほど夕食は先に済ませたと言っていたはずなのに……


「あははは。本当に最近のユリは食いしん坊さんだね。ちなみにどの味が良いんだい?」


「ん~~~! じゃあ、たらこから!」


「はい。お待たせユリ」


「いっただきまーす!」


「いただきます」


 そう言って食べ始めたパスタは、どれも美味しかったが……


 そんなことよりも!


 明らかに大盛りサイズのパスタがみるみるうちにユリの口の中に吸い込まれていくのに驚いてしまった。


「ユリ? さっきご飯は食べたって言ってなかったっけ?」


「うん。食べたよ! これで九皿目かな」


「は?」


 ボクは、まじまじとユリの身体を見るが……


 これといった変化は見られない。


 ボクの知ってるユリは、こんなフードファイター的に食べる子じゃなかったはず!


「じゃあ、次はキノコおねがいしま~す」


「はい。お待たせ」


 まるでそうするのが当たり前のように、ユリのお父さんは、ユリに食事を与えている。


 しかも!


 またしても、大盛りだ!

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