人喰い布団

ガラドンドン

第1話

「人喰い布団だ!!」


悲鳴が飛び交う。布団に包まれた人々が、息も絶え絶えに狂ったように踊り狂う。永眠をする者。死眠をする者。躯眠がいみんをする者。布団に包まれて、様々な形で横になって行く。


その布団が世に現れてから、人類の変化は直ぐの事だった。


~布団歴0年歴史録より抜粋~


「どうして布団が空を飛んでいるんだ!?」


「人間を狙っているぞぉ!!銃もロケットランチャーも効かない!」


始まりの人喰い布団。別名、天下無双布団。突如としてその布団は現れ、人類を襲い始めた。

成人男性二人分は包み込めるような大きさ。天使の羽のような真っ白い掛け布団に敷布団。頑丈。ふわふわ、保温、リラックス効果、肌触り。

その他あらゆるステータスが、この世に存在していた布団の何もかもをも凌駕していた。


「させられる……永眠、させられる……!」


「見ろ、布団に包まれていた奴の顔!こんな安らぎと苦痛が両立したような顔は初めて見た!」


「踊っている……まるで布団がダンスを踊っているみたいだ」


「どうして布団が人を喰うんだぁーー!!!」


その布団は人々の全身を無遠慮に包みこむと、たちまちの内に締め付けた。包まれた人間は息を悶えさせ、その包容力と密閉力により、安寧と苦しみの中に我を忘れて踊り狂う。

最後には人体全てが圧縮によりふわふわにされ、人喰い布団は真っ白だったその身体を真紅に染めていった。


人類も何もしなかった訳では無い。人喰い布団に対抗するべく、人類の叡智を結集した決戦布団型最終兵器等を用意せしめたが、悉く人喰い布団に敵う事は無く。万策が破れて行った。

理由、不明。原理、不明。動機、不明。全てが不明の中で、人々はその布団に対して成す術も無いままに貪り包まれていったのだ。


第一次布団侵攻による被害者数は、優に十億人を超えるとされる。人々は、そのたった一枚の究極的な布団を恐れ湛え、天下無双布団と呼ぶものも現れた。神が遣わした人類への裁きだと、空飛ぶ天下無双布団教として宗教を興す者も現れた。


「増えてるぞ!増えてるぞ!!」


「おい、終わりだもう」


「なんで人喰い布団が増えてるんだぁーー!!!」


人々が天下無双布団への成す術は無いと諦めかけた時、更なる絶望が人類へと押し寄せた。人喰い布団が、増えたのである。

サイズはやや小ぶりなれど、人ひとりを容易に包み込める布団が、数十億。

全人類を寝かせてもお釣りが来る数の布団が、天下無双布団に引き連れられ。空を飛んで人類へと滑空を始めたのであった。


世に言う第二次布団侵攻である。


増えた人喰い布団。天下無双布団ベビーと名付けられた布団達には、始まりの人喰い布団と違い、一つの習性が存在した。

布団を拒み抵抗する者には、変わらず死の抱擁ダンスを。しかし、布団を受け入れ、身も心も布団に捧げると決めた者には。この世のものとは思えない、安らいだ眠りを与えるのであった。

更には、ベビーを受け入れた人間を、天下無双布団は襲う事は無かったのである。


「もう一生これで良いや」


「人間が布団に勝てる訳無かったんよな」


「なんでどうしてとかもうどうでも良いやぁーー!!!」


人類は天下無双布団達によりもたらされる幸福な睡眠により、降伏をした。

天下無双布団への憎しみを捨てきれず。安眠を受け入れる事の出来ない愚かな人間達は、ダンスを踊り血飛沫と共に淘汰され。

残った人類は、天下無双布団によって与えられる眠りを受け入れた者達だけとなった。



今では全人類が、かつての人喰い布団により就寝を行い。

朝起きたくない人間は起こさず。夜更かししようとする人間は眠りに就かせ。

布団が離してくれないと言えば、無条件で有休を取得する事が出来る。


そして始まりの天下無双布団は神格化され。一年に一度、希望するものを抱擁し。その人間とのダンスを持って、一年の幸福を祈る祭りが、世界規模で開かれる事になった。


そんな社会が実現し。結果的に、人類の幸福度は各段に上昇を果たしたとさ。


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