睡眠バトル

タカナシ

第1話

 毎日多忙で時間に追われる社会、いかに睡眠するかが競技と化し、スポーツ、eスポーツに次ぐsスポーツとしてその地位を確立していた。


 sスポーツはいかに早く、そして芸術的に眠るフィギュアスリープ部門と数々の妨害の中でもいち早く眠るトライアスリープ部門の2つが現在では主流となり、人々を熱狂させていた。


 俺、ねむりヒロはまさに麒麟児。この競技の申し子として華々しくデビューした。

 sスポーツに出る様になってからは連戦連勝。常勝不敗の天下無双だ。


 特にフィギュアスリープ部門は俺の得意部門であり、他の追随を許さない。


「sスポーツ決勝戦!! 決勝は天下無双の眠ヒロ選手 対 騒音妨害の五月さつきサイ選手になります。それでは決勝戦開始ですっ!!」


 審判が手を振り上げる。


 ここから10分間はお互いに妨害したり、準備運動したり、精神を統一したりと様々に過ごして良い。その有様も加点対象となり、さらにそこから布団へと潜り込み眠るまでの速さが勝負になる。

 眠るまでの差があればあるほど、点数がマイナスになる。


 つまり、前半は加点を増やすタイム。後半は減点を減らすタイムとなる。

 眠るまでの最高タイムは0.93秒と言われているが、大昔の記録だそうで本当にそんな技を行える人物がいたのかすら怪しい。

 ついでに俺はある必殺技を用いて3秒で寝ることが可能だ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」


 五月選手の大声が会場に響き渡る。

 並みの選手ならばこの大声で眠気など吹っ飛んでしまうだろう。

 だが、俺には無駄なことっ!!


 カカカカカカカッ!!


 肉体でビートを刻むダンスは相手の視線を釘付けにし、興奮を促す。さらに自身にも程よい疲労を与え、睡眠欲向上につながる。


 俺のダンスを見た五月はいつの間にか大声を出すのを忘れ見入っている。


「10分経過っ!! FUTON GOっ!!」


 審判の掛け声と共に俺は足の指で毛布を掴み、それごと一回転して布団へダイブする。

 その間、わずか2秒。

 そして、1秒の後に就寝。


 これが俺の必殺技。毛布一回転っ!!

 その鋭さは日々増しており、本日は2.6秒での睡眠と自己新記録を達成していた。

 正直なことを言えば、本当かどうか分からないレジェンドの記録さえなければ俺が世界記録のはずなのだが、ありえない0.93秒という記録が常に付きまとう。


 そもそも、俺の毛布一回転を超えられる速度で布団に入れたものをみたことがないというのにだ。


 この対戦も俺の妙技であるダンスに釘付けになった五月が俺の睡眠スピードについてこれる訳もなく、満場一致の決着となった。


 審判に起こされた俺は熱いタオルで顔を拭きながら退場しようとする。

 いつものようにテレビのリポーターが勝利者インタビューに待ち構える。


「眠選手。本日も素晴らしい睡眠でした。まさかまさかの新記録での優勝!! おめでとうございます。巷ではレジェンドにも勝てるのではないかという話が出ていますがどうお考えでしょうか?」


「レジェンドですよね。0.93秒は流石にありえないでしょ。そんなおとぎ話と比較されても。もしかしたら昔はタイマーが狂っていたのか、もしくはルールが違ったんじゃないですか。そうですね。例えば、布団に最初から入っていて良かったとか、目を瞑っただけで眠った扱いだったとか。

ちゃんと検証してほしいですよね。で、それが出来なければ無効記録にした方がいいと思うんですよ。いつまでも不確かなものに縛られていたらsスポーツをする人達みんなの害だと思うんですよね」


「そうですね。私もどう考えても0.93秒はありえないと思います」


 リポーターの同意を皮切りに、検証をもっと正確にしろだの、無効記録にしろだのといった世評があっと言う間に広がる。


 そんなある日、俺はいつものように勝利を収め、勝利者インタビューを受けていると、


「あの……、わたしと勝負してくれませんか? 私ならあなた程度なら勝てると思いますので」


 声の方向を見ると、そこには小柄な少女。丸眼鏡と黄色のシャツが妙に似合っているがそれ以外はどこにでもいそうな平凡な見た目の少女だった。


「あなた、急に来て挑戦だなんてっ! ちゃんとトーナメントを勝ち抜いて挑戦するのが筋でしょう!!」


 インタビュアーが間に入って少女を咎める。


 だが、俺は少女の自信に満ちた瞳に興味を惹かれ好奇心から勝負を受けることにした。


「いいでしょう。ちょうど審判もまだいますし、ちょっとお願いしてやってもらいましょう。ま、これもファンサービスですよ」


 俺は張り付けたような笑みを浮かべながら、身の程を知らぬ少女をコテンパンにしてやろうという思いもあった。


「もし私が勝ったら1つお願いがあります。あなたから端を発したレジェンド下げは撤回してください。私ですら1秒で寝られるのです。0.93秒は可能なタイムです」


「1秒? 俺でも2.5秒も切れないっていうのに。これだから素人は」


 俺は呆れ顔で肩をすくめた。


 ステージへと上がると、審判が少女に耳打ちする。

 たぶん名前を聞いているのだろう。


「では、天下無双の眠ヒロ選手 対 ルーキー、みなもとのビー子。睡眠バトル、開始っ!!」


 審判が手を挙げる。


 俺はいつものようにダンスを繰り広げる。一方、源はメガネを外し、ケースに入れる。そのまま目を閉じて精神集中している。だが、俺のビートなら目を閉じていても気になるはず。そんな精神集中なんて無駄だ無駄。


 しかし、源は動じることなく、目を閉じ続けた。

 まれに俺のダンスを歯牙にもかけないヤツがいるから、想定内ではあるが全くの無名の少女がそれを行うとは、確かに挑戦するだけはある。


「10分経過っ!! FUTON GOっ!!」


 少女は目を開けると、次の瞬間には布団の中に居り、さらにはスース―と寝息が聞こえて来た。

 今の動作は……、俺でなければ見逃してしまうほどだね。

 一連の動作はまるでスローモーションのように俺の目を釘付けにしていた。

 無駄が一切ない所作は美しいの一言に尽きる。


 だが、競技者として、すぐにハッとして布団に入る。


「タ、タイムは?」


 俺は起こしに来た審判に尋ねる。


「3秒です」


「違う、俺のじゃないっ!! 源のだ!!」


「1.2秒でした。公式の大会ならレジェンドに並ぶ記録になるところでした」


「そ、そうか……。か、完敗だ。俺はまだまだ……」


 なんとか立ち上がるが、よろめき、壁にもたれかかる。

 そんな俺に源は声を掛けて来る。


「どうですか? 撤回してくれますか?」


「あ、ああ。俺が悪かった。撤回する。だが、いくつか教えてくれ」


「なんですか?」


「どうしたら俺はもっと早く寝れるんだ」


 プライドをかなぐり捨てて教えを乞う。


「睡眠はそこにあるものです。ダンスもいいですが、まずは布団と向き合うことが重要かと」


「わ、わかった。次は俺が挑戦者だ。すぐに追いつく。待っていてくれ」


 それから俺は生活を見直した。

 sスポーツの為に極限まで削っていた睡眠時間。今はそれを気にすることもなく、ゆっくりと布団にもぐる。


 温かい。これが布団? 今まで俺はただの競技する場所だと思っていたが、違うんだ。これこそが布団!! 体が自然と吸い込まれていく。はっ! もしかして、これが早く寝る方法なのかっ!!


 布団に吸い込まれる。比喩でもなくそれを行える境地。それこそが源の境地なんだ。

 だが、自然と今は競う気にはならず、ゆっくりと布団の温かみを感じていたい。そのまま俺は久しぶりに深い眠りについた。


                ※


 これ以降、sスポーツには眠ヒロと源ビー子の名前が席巻し、実は源ビー子がレジェンドの子孫で、本名、野比ノビ子であることがバレ、世界を驚かせるのはまた別の話。




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睡眠バトル タカナシ @takanashi30

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