ユメのあとさき

あおあおの部屋

第1章 レグヌム編

第1話 あたしの平穏

あたしの平穏

 平穏な生活、平和な日々――何も変わらず、不変な毎日。


 騒がしくはあるけど、楽しい日常。


 大切な人達がいて、仕事をして、自分の好きなことをした、充実した人生。


 そんな日常は、悪くなかった。


 今の生活で十分――幸せ。そう思ってる。


 ――これが、きっと望んでいた。




      【あたしの平穏】




 レグヌム、インペル、モクラスという3つの国で構成される大陸。

 そのうちのひとつ――レグヌムには、国家直属の【騎士団】が存在していた。


 国を守る為に創設された騎士団は、国のシンボルと言われてる。

 国を、民を守る為に剣を取る彼らは厳しい試験を越えたうえで騎士となり、日々職務に励んでいる。

 王城が存在する王都内にある詰所を拠点とし、広い王国をまわったり、王城はもちろん王都をはじめとする町の警備を行うことで人々は安心して生活を送っていた。


 そんな王都内にある、とある道具屋で働いているのが――あたし。


「いらっしゃいませー」


 カランカラン、と音を立てるベル。

 ドアにくくり付けているおかげで来訪者を知らせてくれる仕組みになってる。

 薬草のレシピを確認していたところでお客さんが来たから入口を見てみると。


「ユメ、ただいま! 遊びに来たぜ!」


 ――お客さんじゃなくて……遊びに来た、って言うとある騎士だった。


「アラタ……仕事は?」

「ちょっと休憩! ユメの顔見て癒されに来た」


 子どもみたいに笑う彼にあたしは苦笑い。


「何言ってるの……営業中だよ。冷やかしお断り」


 お帰りください、と言うと、アラタは「やだ!」と首を振る。


「昨日まで出張でやっと今朝帰ってこれたんだ! 頼むから癒して!」

「お疲れ様……癒してほしいなら帰って寝た方がいいんじゃない?」

「ユメに癒されたいの! おしゃべりしようぜ! な? 少しだけでいいからさ!」

「おしゃべりって……」


 帰ろうとしないアラタに溜息をこぼす。

 彼はアラタ。10年間交流のある人。

 きっかけは……そう、彼に助けてもらったことだった。




 ――大丈夫? 倒れてたからびっくりしたんだぜ?




 その頃はまだ騎士じゃなかった彼は、とある孤児院で育っていた。

 あたしはその孤児院の前に倒れていて、彼が見つけて保護してくれたんだとか。




 ――どこから来たんだ?

 ――どこ……?

 ――覚えてないのか?

 ――……わからない、何も……。





 目覚めたあたしは頭の中が空っぽで、何も覚えていなかった。


 出自も、家族も、何もかも……そんなあたしに孤児院の先生たちは優しくしてくれた。

 住む場所も食べ物も与えてくれて、気が済むまで居ればいいと言ってくれた。

 記憶が戻ることは今もってないけれど、温かさに触れてあたしは育つことができた。


 ほぼ覚えていない中で、たったひとつだけ覚えているのは名前と年齢だけ。




 ――ユメ。




 そう呼ばれていたことだけ、覚えていた。


 常識も何もかも抜け落ちたあたしを、先生を始め、同じ孤児院で育ったみんながいろいろなことを教えてくれた。

 中でも同い年のアラタは、あたしの側に居ることが多かった。




 ――ユメ。俺、騎士になるんだ。ユメやみんなを守るために!




 成長したアラタは騎士になることを夢見て、そして叶えた。

 そのために頑張っていたから、騎士になった時にはみんなで喜んだなぁ。


 アラタが騎士への道を進み、あたしは同じ孤児院を出たミノリという人と一緒に道具屋を営むこととなって数年が経つ。

 ――正確には、薬草とか魔術の本が好きだったあたしをミノリが誘ってくれて、手伝いをしている状況なんだけどね。


 そんなことがあって、アラタは無事に騎士になったわけだけど、暇があればここによく来ている。

 同じ孤児院出身のあたしやミノリがいる空間で癒されたいんだって。


「――でさ、その町にこーんな大きいオブジェがあって」

「そうなんだ」


 それで、外の世界のことをいろいろと教わっている。


 騎士として出かけることの多いアラタとは違い、あたしは王都の外に出たことはない。

 薬草の材料も本も王都内で調達できるし、出る必要もなかった。


「いつか、ユメと一緒に行きたいんだ。連れてくから一緒に行こうな!」

「……そっか」


 外の世界は、特に興味なかった。

 だって、今の生活で十分――幸せだったから。

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