最終章 アンニュイなオレのレゾンデートル  5


「・・・な、なんだ? ・・・なに、が・・・おきた・・・?」


 槍が貫通して、腹に穴が開いたオスは、その穴から血が噴き出すのを見ながら、現状を理解できずに呆然としてる。

 そりゃそうか。

 オレが死ぬことしか考えてなかったのに、まさか自分も一緒に死ぬなんて、欠片も思ってなかっただろうからな。


「クッ・・・クククッ。アッハハハゲホッゴホッ!!」


 オレも同じように貫通されて、腹に開いた穴からも口からも血が噴き出し激痛が走るが、それでも込み上げる笑いが抑え切れん。

 まさか、こんなに上手く良くとは思わなかったぜ。

 笑い続けるオレを、オスは信じられないものを見たかのように見てる。


「はぁ、はぁ・・・まだわかんねえのか? てめえが出した命令は、オレを殺せってだけ。だから合成モンスターは、オレを殺す為に、オレに向かって槍を投げた。その間に誰がいようとな」

「バ、バカな・・・こ、こんなバカなことが・・・こんなバカなことが許されるはずがゴホァ!」


 オスは口から血を吐き出すと地面に膝を付き、そのまま倒れた。


「・・・なぜ、だ・・・なぜ、こんなことになった・・・僕に対しての攻撃は、一切禁止してたはずだ・・・それなのに・・・それなのに、なぜ僕を巻き込んだんだ、この出来損ないが!!」


 槍を投げた合成モンスターを睨み付けるが、合成モンスターは、相変わらず虚ろな目でフラフラしてるだけ。

 ・・・この巻き込みが成功するかどうか、分の悪い賭けだった。

 オレがミシェリアの召喚奴隷だった時に、同じような状況になったとしたら、ほぼ間違いなくミシェリアに当たらないように槍を投げる。

 それはオレがそうしたいからじゃなく、召喚契約で召喚術者には攻撃出来ねえようになってるからだ。

 しかも合成モンスターは、おそらくだが召喚契約よりも強い、呪いみたいなもので自由を縛られてる。

 だから、いくら奴を巻き込む為に直線に並んだとしても、オレだけを狙う可能性の方が高いと思ってた。

 けど、オレにはもうこれに賭けるしかなくて――。


「・・・ん?」


 ふと合成モンスターを見ると、オレの勘違いかも知れないが、虚ろな目の中に、ほんの僅かだけ生気が戻ってるように感じた。

 もしかしたら、合成されたモンスターたちの、ほんの僅かに残った意識が、奴にかけられた呪いに、必死に抵抗したのかも知れねえな・・・。


「もし合成モンスターに、ほんの少しでも、てめえを守ろうって気持ちがありゃ、こんなことにはならなかっただろうよ。今まで散々モンスターをオモチャにしてきた報いだ」

「くそっ!! くそっくそっ!! こんなところで!! 僕には、まだまだ、やりたいことが・・・イヤだ・・・死にたくない・・・」


 オスは這うような動きでミシェリアに近付いてく。


「助・・・けて・・・ミシェル・・・お嬢さん・・・助け・・・て・・・」

「・・・あたしの手で殺せなかったのだけが残念だ。地獄に落ちろクズ野郎」

「・・・死に・・・た・・・く・・・」


 オスは最後まで生に執着しながら、バッタリと力尽きた。

 いい気味だと笑ってやりたいところだが・・・あいにく、オレもそろそろ限界だ。

 オレは最後の力を振り絞って、這うようにミシェリアに近付くと、縛ってる紐を食いちぎってやった。

 ・・・こんなことしてやる義理はないんだが、一応、レオンに頼まれてるからな。


「お前、やっぱりあたしの召喚奴隷だったリザードマンだろ? 生きてたんだな。他の奴らも生きてんのか?」

「ふ、ふざけんな・・・な、仲間は、てめえのせいで、みんな死んだし、オレも、じきに、死ぬ。それに、今はもう、てめえの召喚奴隷じゃねえ・・・てめえがオレとの、召喚契約を、破棄したんだからな・・・」

「それはあたしじゃなくてあいつが勝手に、って!? お前なんであたしと会話が出来てんだよ!?」

「・・・あぁ? そういや、なんでだろうな・・・」


 喋ってる言語は違うはずなのに、どういうわけか、オレにはミシェリアの言葉が、ミシェリアにはオレの言葉が理解出来てるらしい。

 これが俗に言う奇跡なのか、それとも、死ぬ間際でオレの隠された力が目覚めたのかはわからねえが、どちらにせよ、死ぬ前に聞きてえことがあったからありがてえ。


「クソ野郎は死んだが・・・ゴフッ、の、残った合成モンスターたちは、どうなるんだ? まさか、暴走、しちまうってことは、ねえよな?」

「見てみな」


 ミシェリアに促され合成モンスターたちを見ると、合成モンスターたちの体がボロボロと崩れ始めていた。


「これは・・・」

「お父様の研究中にも同じようなことがあった。多分、あいつの呪縛が解けたお陰で、自分の、自分たちの意志で自壊させてるんだ。おそらく別の場所で戦ってる合成モンスターたちも、同じようにするはずだ」

「・・・アリ・・・ガ・・・トウ・・・」


 そう言い残して、近くにいた合成モンスターは、頭からつま先まで塵と化していった。

 ・・・そうか。

 これで、合成モンスターたちも、苦しみから解放されるんだな・・・。


「そんなことよりお前の傷を!!」

「み、見りゃわかんだろが・・・無駄なことはすんな・・・」


 奴よりは体力もあるし、体も丈夫だからまだ生きてるが、徐々に意識も薄れてきてるし、時間の問題なのは自分でもはっきりわかる。


「なんでここに来たんだ? あいつと戦えば死ぬってわかってただろ? まさか、あたしを助けに来たのか?」

「冗談じゃねえ。ニャン吉。フォーテル。レオン。ミノ。あいつらの仇を、討ちたかっただけだ・・・」

「そうか・・・そうだよな。あたしも、ロクな死に方しねえよな。あたしもあいつと似たようなもんだ。お前たちを復讐の道具にして――」

「知ってる・・・レオンから聞いた。レオンは最後まで、てめえのことを心配してたよ。てめえの弟を見殺しにして、てめえに恨まれてるとも・・・」

「はあ!? あいつがそう言ったのか!? 弟が死んだのはあたしのせいだ! あたしがちゃんと弟を掴んであげてなかったからだ! あいつを恨んだことなんて一度もねえ! こんなあたしをずっと見守って助けてくれてたんだぞ!?」

「はっ、な、なら、レオンの墓前にでも、そう言ってやってくれや・・・墓は、お前が、アホな命令を出した、場所にうぐぅ・・・」


 やべえな・・・さすがに・・・もう・・・意識が・・・。


「さ、最後に、1つだけ、言わせてくれや・・・」

「な、なんだ?」

「召喚術者からすりゃ、召喚奴隷なんて、いくらでも代わりがいると思ってんだろうが、オレらは、道具なんかじゃねえ。みんな、この世界に生きる命なんだ。意思があるんだ。笑うし、怒るし、殴られりゃ痛えし、死ぬのだって怖えんだ・・・」

「・・・・・・・・・」

「こ、これから、て、てめえが何をするかは、知らねえ・・・けど、せめて・・・そこんところだけは、忘れねえでくれ・・・じゃねえと、折角、助けてやったのに・・・てめえも、あいつと同じ死に方、するぜ・・・」

「・・・ああ。わかったよ。絶対に忘れない。お前の言ったこと。あたしが今まで召喚奴隷にして来た奴らのこと、そして・・・お前のことも、絶対に忘れないから・・・」


 ・・・やれやれ。

 こんなところで、こんな風に終わるなんてな。

 オレとそっくりな嫁さんもらって、オレとそっくりな子供作って、平和に一生を全うしたかったもんだ。

 ニンゲンに無理やり召喚奴隷にされて、無理やり戦わされて、ふざけんなって思ったことも何百回もあって・・・。

 なんつうか、オレは一体、何のために生まれて、何のために生きたのかわかんねえな。

 ま、仲間の仇を討てたことだけは良かったが・・・。

 ・・・はぁ。

 最後の最後までため息が止まらねえぜ。

 こんなことになるなら、こんなんで終わっちまうなら、せめて、何か1つだけでも、オレが生きた証みたいなもんを、残しておきたかったもんだぜ・・・・・・。

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