第五章 アンニュイなオレの葛藤 3


 太陽が沈み始めた、オレンジ色の空の下。

 道なき道の森の中を歩いていると、遠くでニンゲンがモンスターを襲ってやがる光景が目に入った。

 最初は奴かとも思ったが、襲ってるのは完全武装してるニンゲンのオス3匹だし、そもそも召喚術者でもなさそうだ。

 前にレオンから聞いた話しだが、ニンゲンだからって、誰でもかれでも召喚術者になれるってわけじゃねえそうだ。

 一応その理由を聞いてはみたんだが・・・まあ、オレはニンゲンじゃねえから、理解出来なくても問題はねえ。うん。

 とにかく、襲ってるのは自分自身で戦うタイプが3匹で、襲われてるのは・・・あれはゴブリンだな。それが2体だ。

 ただそいつらの周りを見てみると、ゴブリンの死体がいくつも転がってる。

 ここはニンゲンが作った街道からは外れてるし、偶然、鉢合わせて戦ってるとは思えねえ。

 しかも召喚奴隷にしようとしてる様子もねえし・・・となると、ただ殺すのが目的か。


「・・・ムナクソ悪いぜ・・・」


 オレも万全な調子ってわけでもねえし、今は余計なことに首を突っ込みたくはねえが、見ちまった以上、素通りにゃ出来ねえ。


「・・・しゃあねえ。いっちょやってやるか!」


 オレは槍を握り直し構えると、ゴブリンとニンゲンが戦ってる場所に突っ込んだ。


「ギギャアアアッ!!!」

「ななななななんだなんだ!?!?!?」


 ゴブリン2体を前にもう勝った気でいたんだろうが、背後から突然オレが現れ、ニンゲンどもは見るからにパニクってる。

 オレはその隙を見逃さず、一番近い奴の腹を槍で突き刺すと、その突き刺さった1匹を2匹目にぶつけてやった。


「一気にやっちまうぞ!!!」


 ニンゲンどもが体勢を立て直す前に、ゴブリンに合図を送る。

 ゴブリンにはさっきオレが腹を突き刺して瀕死の奴と、そいつをぶつけて一緒に倒れてる奴の相手をさせて、オレは残った無傷の奴が相手だ。


「――ッ!!! ―――ッ!!!」


 対峙したニンゲンが浮き足立って、オレを見ながら必死の形相で何か喚いてるが、あいにく何を言ってるのかさっぱりだ。

 まあどうせロクでもねえことだろうし、さっさと終わらせて先に進みてえから、相手してる暇もねえけどな。


「オウラアアァッ!!!」


 構えた槍を真っ直ぐ突き刺すようにしながら、相手が盾を構えたところで一瞬だけ引く。

 すると相手は、来ると思ってた衝撃が来ないせいで一瞬だけ力が抜ける。

 そうして出来た僅かな隙に、今度は思いっきり力を込めて盾にぶつけた・・・んだが。


「ちっ!!」


 オレの攻撃は盾で完全に防がれた。

 いつもなら、これぐらいの体格と装備の奴なら盾ごと吹っ飛ばせるんだが、やっぱり片手だけだと握りが甘くなるうえに、攻撃に込められる力も半分かそれ以下になっちまう。

 だが無惨に殺されたゴブリンたちの為にも、逃げるつもりも逃がすつもりもねえ。

 反撃に備えてすぐ槍を引き戻すと、今度はニンゲンが剣を振り上げて向かってきた。

 そこからは一進一退の攻防。

 相手のニンゲンはそれほど手練れじゃねえが、一撃の重さがない今のオレじゃ、簡単には倒せねえ相手だ。

 とはいえ、こっちもそれなりに修羅場をくぐってきてる。

 今まで生き残って来たのは伊達じゃねえ。


「ウラアアッ!!!」


 時間はかかったが、オレの槍がニンゲンの体を突き刺すと、相手は最後に何か呟いて死んだ。


「ふぅ。なんとか勝てたか」


 ニンゲンが死んだのを確認してからゴブリンの方を見ると、そっちはとっくに終わってたらしく、ゴブリンたちはオレとニンゲンの戦いを傍観してたようだ。

 まあ1匹はもうほとんど死にかけてたし、もう1匹も体勢を崩してたからな。

 つか、終わってたんなら助けろよ。勝ったから良いけどよ。


「大丈夫かお前ら?」

「ダイジョウブ、チガウ。コイツラ、トツゼン、ヤッテキタ。ワラッテ、ナカマ、コロシタ。ユルセナイ」


 ゴブリンとは少しだけ言語が似てるおかげで、オレの言葉もゴブリンからすりゃカタコトに聞こえるだろうが、何とか話すことが出来る。


「・・・そうか」


 襲って来たニンゲンどもがいなくなったのを確認すると、ゴブリンは死んでそのままになってた仲間のゴブリンを一箇所に集め始めた。


「何する気だ?」

「モッテカエル。ウメル」

「ああ、近くにお前らの村があるのか。そこに持って帰るんだな」

「ソウダ。ニンゲンモ、モッテク。クウ」

「腹壊さないように気をつけろよ。運ぶの手伝ってやりたいんだが、オレも先を急いでてな。じゃあな」

「ソッチ、イクノカ?」


 オレが北に向かって歩き始めると、少し怯えながらそう言ってきた。


「ああ、そうだが?」

「キヲツケロ。ノリモノ、ノッタ、ニンゲン。ミタコトナイ、イキモノ。モリ、イキモノ、コロス、シナガラ、ソッチ、イッタ」

「!?」


 ゴブリンが言ってるのは、多分、奴と合成モンスターのことだ。

 道は間違ってなかったってことだな。


「忠告ありがとうよ。けどオレはそいつらに用があってな」

「・・・シヌゾ? アレ、フツウ、チガウ」

「それでも引けねえ理由があんのさ。あ、そういや1つ聞きてえんだが、ニンゲンのメスはいたか?」


 2体は顔を見合わせると、お互いに首を横に振った。


「ワカラナイ」

「そうか・・・。まあ、あいつがどうなってようが、別にオレは良いんだけどよ」

「???」

「いやなんでもねえんだ。こっちの話しさ」


 ゴブリンたちは最後までオレを心配して、村でもてなしてくれるとまで言ってくれたが、オレはそんなゴブリンに感謝しつつ断り、また北へと向かって歩き始めたのだった。

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