天下無双武闘会 ~この大会は寝具メーカーの提供で開催しています~
真偽ゆらり
読み間違えた男
「副賞は高級寝具一式だけではありません!」
正方形の巨大な石畳を敷き詰めた石造りの舞台に出場者を並べて進む開会式。
「優勝者には不祥事を起こさない限り、『強さは眠りから』でお馴染みの寝具メーカー『真なる眠り』の年間CM出演権も贈呈されます! もちろん出演料は優勝賞金とは別になっております」
思わぬ副賞に湧き立つ出場者達の中、俺は気が気ではなかった。確かに新しい布団が欲しくて副賞目当てにこの大会に参加した……最悪、参加賞のタオルケットでも手に入れば御の字だと。
入場口の奥にある建物に掲げられた『天下無双武闘会』の文字を見てから戦慄を隠し得ない。他の参加者には武者震いだと思われているっぽいがそうじゃないんです。
武闘会じゃなくて舞踏会だと思ってました。
ダンスバトルじゃなくてガチバトルとか完全に想定外。体育のダンスで優の評価貰えた事があるからワンチャンあるかと思って参加したんです。はい、ちゃんと文字を読めって? まったくその通りで返す言葉もございません。
だったら棄権しろって思うかもしれないけど、そうはいかない理由があるんです。
ペットがね、しちゃったんですよ。俺の布団の上で、
新しいのを買おうにも新生活でお財布の中が心もとないと思ってた矢先に見つけたのがこの大会。
だから何としても参加賞のタオルケットくらいは持って帰りたい。だけどタオルケットの為に痛い思いはなるべく遠慮したい……のに、初戦を棄権すると参加賞は貰えないとさっき説明があって絶望しているところです。
もう笑い声しか出てこない。
「――っと、待ちきれなくて不敵な笑みをこぼしている参加者さんもいることですし大会の方へと移っていきましょう!」
え、いや違うんです。どっちかというと移ってほしくないんですけど!? 時よ、止まれぇぇぇ……ってそんな魔法もスキルも持ってないんで一回戦が始まっていきました。
ヒトとヒトが拳を交えた音とは信じられない轟音と共に試合が消化されて刻一刻と俺の番が近づいている。武器は禁止だが、身体強化魔法なんて外から使ってるか判別するのが面倒というとんでもない理由で魔法の使用が許可されているがそこに勝機を見出せそうもない。
俺が唯一使える魔法『
「そろそろ決着が突きそうなので準備の方お願いします!」
不味い、もう試合順が来てしまった。
担架で運ばれていく前試合の敗者を横目に石造りの舞台へ。
試合後は勝者敗者共に回復魔法を掛けてもらえるが謎の規定により回復量は一定で勝っても負けてもダメージが残る。いかにダメージ量をコントロールするかが優勝の鍵だって言ってませんでした? 担架で運ばれてますけど。
「ほう。中々に良い目つきをしてやがる」
違います、生まれつき眼光が鋭いだけなんです。おい! 今、何人かヒトをヤってそうな眼っていった観客は誰だ。いや、あの見ただけで悲鳴上げんでもろていいですか? 普通に傷付くですけど。
「では試合の前に何か一言ありますか?」
「俺様には無い。さぁ早く始めようか」
司会兼レフェリーを担うサングラスの黒服が対戦相手から俺の方へとマイクを向ける。もう、ここに賭けるしかない。
「目標は優勝で?」
まずは対戦相手に問い掛ける。
「なにぃ? 当たり前のことを聞くんじゃあない」
「優勝を目指すならお互いダメージが少ない決着を決めたくはないか?」
「ふん。確かにアイツとの決着を決める為にダメージが少ないに越した事はないな」
よし、乗ってきた。
「筋肉美、機能美といった言葉があるように鍛え抜かれた力や磨き抜かれた技には美しさが宿る」
「何?」
「ま、まさか――」
黒服さん、察しがよくて助かります。
「――武闘会ではなく舞踏会! ダンスで勝負を決めようと!?」
血沸き肉躍る闘争を求めて来たであろう観客からブーイングの声が上がるが、手を伸ばし声の方へと視線を向けると直ぐに観客の声は収まった。え、俺の眼そんな怖い? ごめんね。
「このネット全盛の時代に会場まで脚を運ぶほどに目の肥えた観客達なら観ただけでどっちが強いか――いや、どっちがこの先面白い闘いを魅せてくれるか分かるはずだ」
見るのが怖いので対戦相手には目もくれず、観客席を見渡して一言。
「それとも……君らの眼は、節穴か?」
怒号に似た歓声が沸き上がる。
観客は呑んだ。
冷静になる隙は与えない。
「では提案した俺の方かいかせてもらう!」
唸り声を上げながら気っぽいモノを再現した淡い黄色の光を身体から立ち昇らせながらお湯が湧きたつ様な音を立てる。そこから段階的に地面が軋む音、空気が奮える音を鳴らし――衝撃波が起きた風に土煙を上げた。
もちろん演出効果魔法でそれっぽく見えるだけ。
「な、髪が金色に!?」
演出効果魔法の光で覆ってみただけです。反応が良かったのでそこから更に髪の色を蒼、紅ときて銀色へ。
深呼吸を一つ。
今までの一回戦で観てきた動きから型の動きを真似し、流れる様に繋いでいく。踏み込みの音が足らなければ魔法で足し、動きに合わせて炎や雷の幻影を使ってとにかく派手に動いた。
最後は突き上げた拳から伸びた光が空を覆う黒雲に波紋を打ち、青空を取り戻したところで対戦相手に手を差し向けて順番を譲る。
今日はずっと快晴だったので黒雲云々は演出効果魔法によるモノだ。
「クッ、次は俺様の番というわけか」
流れは我にあり。このまま適当に理由を付けて負けを認めてしまえば俺の勝ちだ! 負けだけど。
つい零れてしまった笑みを受けて対戦相手が踊り始める。
「た、楽しいBINGO!」
うっそだろお前。
観客の目は節穴だった。
俺達の天下無双武闘会はこれからだ……俺の活躍をお祈りください。
天下無双武闘会 ~この大会は寝具メーカーの提供で開催しています~ 真偽ゆらり @Silvanote
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