〜猫ときさらぎ駅~ACT1
「大貫さんにお願いしたい事があるのですが」
そう話しかけてきたのは、佐伯雪菜である。
私は、コンビニの駐車場のフェンスにもたれかかりながら立っている男の横で欠伸をしていた。
私の横に立っている男の名前は、大貫健吾。私の下僕のようなヤツだ。私に源之助という名前をつけて呼び始めたのはこの男である。
私は、このコンビニの駐車場で昼寝をしている事が多い。猫である私は、このような駐車場でも、良い場所を探し出し、くつろぐ事ができる。
私のお気に入りは、コンビニの裏にある四角い箱の上だ。なんでも、室外機と言うらしい。少しうるさいが、冬でも温かいのが気に入っている。
いつもは室外機の上で昼寝している事が多い私だが、今はコンビニの駐車場の車止めの上でくつろいでいる。健吾がコンビニの仕事が終わった後は、決まってこの駐車場で缶コーヒーの飲みながら休憩をするからだ。
今日も朝用と書かれた赤いラベルの缶コーヒーを飲んでいる。朝用と書いてあるが、朝以外に飲んでもいいらしい。
健吾は、人間の年齢で30歳を超えているが、ちゃんとした仕事についていないらしい。このコンビニでバイトをしている。ただ、私達は他に仕事を持っている。
探偵に似ている仕事だが、普通の探偵とは言えないであろう。そちらの仕事での収入が時々あるので、それ程生活に困窮している訳ではないようだ。
「お願いって?」
健吾は、駐車場のフェンスにもたれかかった状態から半歩前に進みながら答えた。少し訝しげな表情をしているのは、悪い前例があるからだろう。
この雪菜という女は、何度か私達に厄介事を相談している。そのどれもが、なかなかの大事件に発展していた。
最初は、バラバラ殺人事件(猫の悪霊退治〜猫とバラバラ殺人~を参照)に巻き込まれ、二度目はお化けトンネルを舞台にした誘拐事件(猫の悪霊退治2〜猫とお化けトンネル~を参照)に巻き込まれたのだ。健吾も、少し警戒しているのだろう。
「あの、私の友達を探して欲しいんです」
雪菜は、健吾に近づきながら上目遣いに見つつ話しを続けた。この雪菜という女は、人間達が言うところの天然である。
イヤ、極度の天然である。そのため、上目遣いに視線を送る事が、人間の男にとってどのように感じるかを知る事はない。極度の天然のため、このように無意識で男を釣ってしまうところがあるようだ。
「私の大学の友達が行方不明になっているんです」
「その友達を探して欲しいって事?」
健吾は、上目遣いに見つめる雪菜に少しドギマギしながら尋ねる。
「はい」
「でも、行方不明とかなら警察とか、ちゃんとした興信所とかに頼んだ方がいいんじゃない」
健吾は、なんとか絞り出すように答えた。
「いえ、たぶん大貫さん達じやないと見つけられないと思います」
雪菜は視線を健吾から離さずに真剣な面持ちのまま答えた。
「それってどういう事?」
そう聞き返した健吾に対して、雪菜は友人が行方不明になった経緯を話し始めた。
「あの、え~と」
そう言いながら話し始めた内容はこんな感じである。
雪菜の友達である三村綾女が行方不明になったのは、大学の飲み会の帰りかららしい。飲み会の帰りに終電に乗った彼女は、その日を境に姿を消した。
「それって、連絡がつかないって事?」
途中、健吾が雪菜の説明に質問を挟む。
「はい、綾女ちゃんは実家に住んでるんですけど、親御さんも連絡がつかないみたいなんです」
どうやら、行方不明になった三村綾女という女には、今までこのような事はなかったらしい。また、すでに警察には届けられているようである。
「それなら警察に任せるしかないと思うけど」
「その後、綾女ちゃんと仲がよかった男の子も行方不明になっているんです」
健吾の言葉に被せる勢いで、雪菜がそう言う。雪菜の話しでは、三村綾女という女が行方不明になった後、その友達である戸山正広という男も行方不明になっているらしい。どうも、戸山正広という男は、三村綾女を探していたようだ。
「それって、何かの事件に巻き込まれたのかもしれないよ」
健吾がそう言ったのは、何かの事件に巻き込まれているのであれば、私達の出る幕はないからである。
それこそ警察でなければ対処出来ないであろう。そして、下手に素人が首を突っ込めば、危ない目に会う事になる。それは、私達だけでなく雪菜にも降りかかるかもしれない。
「やっぱり、オレ達が手を出していい事ではないと思うよ」
健吾は、そう言いながら、もうぬるくなった缶コーヒーを飲み干した。
「いえ、警察では綾女ちゃんを見つけ出す事は出来ないと思います」
雪菜は、力強くそう言いきった。そしてさらに続けてこう言う。
「たぶん、綾女ちゃん達を探し出せるのは大貫さんだけだと思います」
そう力強く言った雪菜には確信があるように見えた。
さっきも言ったが、この雪菜という女は、普段は天然なところのある女である。イヤ、極度の天然と言ってもいいだろう。どちらかというと、積極的に動くタイプという訳ではない。
しかし、今回の雪菜の話しからは、力強さを感じた。友達を助けたいという、必死な思いもあるのかもしれない。
「なんでそう思うの?」
少し雪菜の勢いに気圧されている健吾が尋ねる。
「綾女ちゃんが姿を消した場所が普通じゃないんです」
そう言った雪菜の目は、すでに上目遣いではなく、力を帯びた真っすぐな視線に変わっていた。
「普通じゃない?」
そう尋ねた健吾に、雪菜は間髪入れずに答えた。
三村綾女と戸山正広の二人が姿を消した場所について雪菜はこう言ったのである。
「きさらぎ駅です」
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