第2話 配信

 ハンターランクが低いとバイトで雇って貰えない。

 物を持てる力とかもランクに左右されるから、肉体労働系は特にそうだ。

 俺の学力では事務系も無理だ。

 いくつもバイトの面接を受けたが全て駄目だった。

 新聞配達ですら、ハンターランクだからな。


 仕方ないので、俺はアルバイトとしてダンジョン配信を始めた。

 怪我をしてもすぐに治るので、致命傷を負わなければ大丈夫。

 危険だが、仕方ない。


 ダンジョンに入るには、通常は入場料を取られる。

 たが、学生は無料だ。


「学生さんね。気をつけて」

「はい」


 ハンターカードと学生証をゲートにタッチする。

 ゲートが開く。

 さあ行くぞ。


 配信を始めた。


 このダンジョンは森だ。

 広大な森が広がっている。


 踏み込むと空気が綺麗なのが分かる。

 排気ガスと無縁だから。


 空には太陽はないけど、明るい。

 あるハンターが上を調べたら、行き止まりだった。

 空の色の壁があるということだ。


 モンスターの咆哮が遠くから聞こえる。

 嫌でもここがダンジョンだと思い出させる。

 自然豊かではあるが、危険地帯。


 ダンジョンが出来たのは、10年前。

 その時に、10歳以上の人間は一斉に覚醒した。

 ダンジョンショックと呼ばれている。


 そして、ダンジョンからモンスターが何匹か出て来た。

 まだ、アビリティに慣れてない人間は、銃火器で対応したが、モンスターに銃火器は普通効かない。

 不思議なバリヤーみたいな物をモンスターは纏っているからだ。

 覚醒した人間が手に持っている武器と、アビリティを使った攻撃しかモンスターには通らない。

 だが、例外として弾丸にアビリティを使えば、銃火器も役に立つことは証明されている。


 人類はモンスターにやられまくって、対処法に気がついた。

 それから、ハンターの時代が始まった。


 ダンジョンからモンスターが大量に出てくるスタンピードは滅多に起こらない。

 ただ、たまに単独のモンスターが出てくることはかなりある。

 みんな、覚醒してるから、被害者がでることは珍しくなった。


 ダンジョンを作ったのは誰かという研究は続いている。

 神だとか、宇宙人だとか、異世界からの侵略だとか、色々な説がある。

 ただ、素材の恩恵が凄いので、ほとんどの人は恵みだと思っているようだ。

 モンスターはEストーンというのを体の中に持っている。

 これに刺激を与えるとエネルギーを発するのだ。

 現在の発電のほとんどはこれを使っている。

 他にも素材は色々な物に使われていて、不思議なことにモンスター素材は、現代科学の最先端素材を上回る性能だ。

 その性能の仕組みを真似して再現したいが、分析できないようだ。


「ビビリです。ビビリチャンネル始めます。今回はソードタイガーです」


『今回こそ死んだな』

『¥10000:頑張って! 応援してる! 二礼二拍手一礼』


 コメントが腕に付けた端末に表示された。


「投げ銭、ありがとう」


 投げ銭してくれたのはいつもの常連だな。

 チャンネル登録者数が100にも満たないのに、この人はいつも投げ銭してくれる。


 不良達に巻き上げられると思うと腹が立って、この人に申し訳なく思うけど、仕方ない。

 森フィールドのダンジョンをソードタイガーを探して歩く。

 双眼鏡で観察。


 いたな。

 トラの2倍ぐらい巨体で、二つの犬歯が剣みたいだ。

 情報ではあの犬歯に触れると、豆腐みたいに肉体が斬られるのだとか。

 討伐に成功すれば素材で100万円は堅い。

 俺には絶対に無理だが。


 ビビるな。

 ビビったら食われる。

 モンスターに出くわしたら、とにかく強気を持てと教本にはある。

 事実、威嚇で追い払った例もある。

 足音を立てないように近づく。


「もう、限界。これ以上近づけない」


『頑張れ。お前ならいける。そして玉砕してくれ』

『グロはやめて』

『頭に付いているカメラなら、そう酷い映像にはならないだろう』

『ビビリさんのちょっといいとこ、みてみたい! それ、一気! 一気!』

『¥10000:死なないでね。二礼二拍手一礼』

『¥100:香典代わりだ』


 ソードタイガーが俺に気づいた。

 そうなると思ってた。

 投げ銭のお礼を言う暇もない。


 全速力で逃げる。


『必死だな』

『でもどこか余裕』

『ビビリさんて、高ランクハンターだと思っている。あの逃げ足はきっとそう』


 まだ、追ってきている。

 ダンジョンの出入り口に向かって、ただ走る。


 ダンジョンからなんとか出られた。

 後ろを振り返って、閉まったゲートと、ソードタイガーが出て来ないのを確認。


「生き残れました。投げ銭、ありがとう」


『¥10000:おめでとう。二礼二拍手一礼』

『息が切れてないね。やっぱり高ランクハンターのお遊び確定』


 息が切れてないのはきっと傷の治りが早いのと関係してると思う。

 調べたことはないけど。


「投げ銭、ありがとう。いつも応援、助かってます」


『討伐動画ではないのな。まあ、無いジャンルではある』

『近づいてから、逃げるだけか。俺はもう見ない』

『チャンネル登録したよ。追いつかれたら、どうなるか期待』

『追いつかれたら、アビリティを使って終わりじゃね』

『そうしたら、このチャンネルが終わるのかな』


「チャンネル登録もありがとう。これで今回の配信は終りです。また明日よろしく」


 ふう、生き残れた。

 だが、投げ銭してくれる常連さんがいなくなったら、どうにもならない。

 再生回数の利益は雀の涙だ。


 部屋代とか光熱費とかは有賀さんが管理してる。

 朝飯と夕飯も、なぜか有賀さんが持って来てくれる。

 きっと、両親の遺産があるんだろうな。

 保険金かもしれないが。


 結構な距離を走ったが、肉体的には疲れてない。

 俺って凄いのかな。

 でも不良達に力で勝てた試しがない。


 反撃したことは何度もある。

 だが、通じなかった。

 俺の能力って肉盾とか、そっち方面だな。

 討伐のパーティに入ることは考えたくない。

 怪我を負って治るの繰り返しで酷い目に遭うとしか考えられない。

 治るのが早くても痛いものは痛い。


 ダンジョンから出て、あるお宅にお邪魔する。


「今日も、タマに会いに来たの」

「ええ」


 三毛猫のタマが俺の匂いを嗅ぎつけたのか奥から歩いて来る。

 そして、俺が撫でると挨拶は終わったとばかりに戻って行った。


 タマは、捨て猫だ。

 段ボールに入れられてた3匹の子猫の1匹。


 可哀想だったので、俺が部屋に連れていくと有賀さんが来て、動物病院を手配してくれた。

 治療が必要だったけど、薬で治るようなものだったので一安心。

 俺の部屋はペット禁止だったので飼えない。


 引き取り手が見つかるまではと大家さんに無理を言って、しばらく飼った。

 ネットで引き取り手を探して、子猫は貰われて行った。


 俺はクズにはなりたくない。

 虐められているからといって、優しさを失ったら駄目だ。

 動物を虐待するような奴は許せない。


 日曜日がなければ、俺もクズになっていたのかな。

 そんなことはないと思いたいけど。


 タマの顔を見たので元気が出た。

 他の2匹は遠いので、会いに行けない。

 いつか会いに行けるようになったら良いな。

 いや、いつか会いに行く。

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