第2話 その後


 その後、犯人の身柄を引き渡し、要救助者の救出を済ませる。幸い、トイレに立て籠もっていたようで怪我人は居なかった。店内の全域走査で危険物を洗い出し無事終了する。


 今は帰路についた二人が車内にいる。


「佐々木さん、私たちって犯人の逮捕はしないんですか?」

 美花は溜まった疑問を吐くように首をかしげる。


「ああ、魔法庁は逮捕権を持ってないからな」


「へぇー」

 うわの空のような返事が出る。


「あ、じゃあなんで私たちは警察と別の組織なんですか?」

 ふと思い付いたような語調で話を進めていった。


「それは、魔法を使った犯罪が少ないことと捜査に特殊な技術がいるからだ。要は無駄に金がかかる。ここまでなら別に警察で良いが、魔法技術は国防が絡むからな」


「へぇー」

 またうわの空。露骨に船を漕いでいる。


「寝たかったら寝てもいいぞ。それに話すこともないだろ」


「いやいや!先輩に運転させてるのに眠れませんよ!」

 今ので少しマシになったか、うつらうつらとした表情はなくなった。


「そうか。自慢じゃないが、俺は魔法が使えないせいで生まれてこの方昇進を経験したことないぞ? だから先輩だとか気にするな」

 圭吾は自嘲気味に言った。


「反応に困ること言わないでくださいよ……それに質問もちゃんと気になってたことですし」


「意外だな。眠そうだから嫌々かと思ってたが」


「私が生まれる直前で離婚した、お父さんが警察官をやってたらしいんです。それで、この仕事ならそのうち会えるかなって考えてたら、話の感じ全然関わらなさそうで……」


「おぉ……そうか…すまん、変なこと聞いた……」


 少し沈黙が続く。車内は走行音と後部から聞こえる荷物がぶつかり合う音だけだった。


 その沈黙を美花は打ち破る。


「別に気にしてませんよ、ちょっと気になってるだけですし。まあまあ、困ること言い合った同士仲良くしましょうよ〜」


 軟化した態度で話をする。



「あと、『先輩だとか気にするな』っていいましたよね? これからウザ絡みが増えると思いますがよろしくお願いしますね? それに私たちはコンビですからね、そういうこともしないと!」


「コンビだからってする必要はないだろ……」





 事件解決後、二人はオフィスに戻った。田中課長は報告を聞き、満足げに頷いた。


「よくやったな、二人とも。特に美花、初めての任務で見事だった」


「ありがとうございます!」

 美花は誇らしげに答えた。


 圭吾は黙っていたが、内心では美花の力に驚いていた。彼女の魔法は制御が難しいが、その潜在能力は計り知れないものがあった。



「これからもこのコンビで行くぞ」

 田中は宣言した。


「佐々木の分析力と橘の魔法力、最強の組み合わせだ」


 圭吾はため息をついた。


「はい、課長」


 オフィスを出た後、美花は圭吾に近づいた。


「ねえ、佐々木さん。私、本当に迷惑かけてばかりですみません……でも、頑張りますから!一緒に魔法事案を解決していきましょう!」


 彼女の明るい笑顔に、圭吾は少し表情を和らげた。


「...まあ、今日は悪くなかった。だが、魔法の制御はもっと練習しろよ」


「はい!頑張ります!」

 美花はぴょんと跳ねた。その瞬間、近くの観葉植物が突然青い炎を上がる。


「わあ!ごめんなさい!」


 圭吾は慌てて消火器を手に取りながら、これからの日々を思い、小さく笑った。


 厄介なパートナーだが、それでも楽しくなるだろうな──と。





 その日の夜遅く、薄暗い魔法対策課のオフィスには一人の男が。彼は指先で暗い魔法を弄びながら、職員用パソコンのスクリーンを見つめていた。


「橘美花……現実改変の魔法か。興味深い」


 画面には美花と圭吾の情報が表示されていた。男は不敵な笑みを浮かべると、魔法でパソコンの電源を落とした。


「魔法腐敗計画…そろそろ次のフェーズに移る時間だな」


 彼の後ろには、壁一面に広がる複雑な魔法陣が薄暗く光っていた。

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異能バディ!~常識人とチート(?)魔法使い。公務員の奮闘記~ ミTerら使 @mitara4_SHI

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